Cosmetic in Japan 美容医学への扉-東京大学美容外科-アンチエイジング
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女性の美容外科

 東京大学形成外科美容外科 吉村浩太郎
(日本母性保護産婦人科医会研修テキストより)

 

 物質的に非常に豊かな社会になると、日常生活の中でも健康だけでなく美容にも強い関心を持つ余裕が生まれてきます。美容には、化粧、ダイエット、エキササイズなど、様々な取り組み方がありますが、医療の力を借りて通常の方法よりも大きな改善を得ることによって、より積極的な自分を取り戻そうとする意識も近年増えてきております。美容治療を受けることにより、精神的負担から開放される患者も多く見られます。そういう意味では、美容外科は精神外科という側面も持っています。

 美容外科というのは、本来は外科的手法、すなわち手術を行って外貌を改善することを目的としておりますが、医療技術や医療材料の進歩によって、様々な治療法が行われるようになりました。近年人気が出ている、コラーゲン注射、レーザーやピーリングなどはその代表的なものです。より負担の少ない形で結果が得られるような方法が次々に開発されています。ホルモン療法など内科的な治療法を使って美容や長寿をめざした治療も海外では始まっております。


 

美容外科の扱う対象は非常に幅広いものがあります(表1)。代表的なものは、シワ、シミなどの若返り(facial rejuvenationといいます)治療、豊胸術、脂肪吸引(注入)、重瞼術、隆鼻術などです。他にも、禿髪(植毛)、エラやアゴの形成、乳房下垂(肥大)、陥没乳頭、性器の形成(小陰唇肥大)、脱毛(腋窩、下腿、前腕、ビキニライン)、にきび(痕)、目立つ毛穴、刺青、傷跡の治療など、枚挙に暇がありません。なかでも若返りの治療は高齢社会が進んでいることもあり、一番注目されるテーマとなっています。


 

 Rejuvenationの治療には様々な手段が用いられますが、それぞれの手段は固有の目的があり、治療対象も各々異なっていおり、いくつかの治療方法を組み合わせて総合的な治療を行うことが理想的です(表2)。

 外科的に手術をして若返る方法で、代表的なものはやはりfaceliftです(図1,2)。年をとると、顔の皮膚と脂肪や筋肉の間のつながりがゆるくなり、重力によって下垂しタルミが出てきます。顎のラインや鼻唇溝(鼻の両側から口の外側に伸びる深いしわ)に、とくに目立ってきます。手術によって皮膚の下の筋膜を吊り上げて余分な皮膚を切除して、重力による軟部組織の下垂や余分な皮膚のシワを取ることが一番効果があります。耳の前や後ろ、髪の毛の中の皮膚を切りますので瘢痕は目立ちません。額のシワをとる手術の場合は頭頂部の頭髪の中を切ります。この場合は内視鏡を用いることも多くあります。あわせて、皮膚の下の余分な脂肪を吸引したり、顎の下の首のタルミをとることもあります。

 年をとると上眼瞼が下垂してくることはよく見られます。下垂した上眼瞼や上眼瞼の余剰皮膚のたるみには、上眼瞼の横しわにそって余分な皮膚を切りとるとともに、眼瞼挙筋の短縮術をします。下眼瞼の皮膚のシワや丸く垂れ下がったタルミも、目立たない下眼瞼縁を切って眼窩脂肪の形成や余剰皮膚の切除を行います。皮膚に傷をつけずに眼窩結膜側から眼窩脂肪を切除することもできます。下眼瞼の眼窩脂肪の少ない人の場合は脂肪注入をすることもあります。

 静止時にも明瞭な眉間や上口唇の縦ジワなどには、コラーゲンの注射が良く使われます(表3、図3)。簡単にできて腫れもわずかであるため、当日から普通の生活ができます。ただ、3ヶ月から6ヶ月程度で吸収されてしまいますので、繰り返し注射する必要があります。牛から取ったコラーゲンであるため、約3%の方にアレルギー反応がでますので、必ず注射の数週間前に皮内テストをしてアレルギーが起こらないことを確認する必要があります。最近は、テストの要らないヒアルロン酸や、吸収のないポリマーを配合した製品も登場してきました。若年者のニキビ痕のくぼみ等には非吸収性の注入剤が重宝します。今後も多くの新しい注射剤が開発されることでしょう。

 額などの筋緊張性の横ジワやカラスの足跡のような笑ったときにできる大きなシワは、筋肉を麻痺させるボツリヌス毒素を注射して治すことができます(表4)。この場合は、笑ったときでもその筋肉が動かなくなりますので、少し表情が変わります。3ヶ月から6ヶ月で薬の作用はなくなりますので、必要に応じて追加をすることになります。額の筋肉が緊張して生じている額の横ジワにも非常に効果があります。

 一方、小じわやちりめんジワなどにはスキンリサーフェシング(皮膚の表面を新しく再生させる意味)という方法があります。この場合は皮膚を敢えてモ削るモことになりますが、電気やすりで削る方法(アブレージョンといいます)、レーザーで削る方法、そして酸などの化学薬品で削る方法(ケミカルピーリング)があります。通常の生活のままで皮膚の張りを改善したい方には多少時間はかかりますが、レチノイン酸という外用剤で治す方法があります。

 高齢になるとシミも多くなりぶち模様になったり、皮膚も張りを失い、色も黄ばんできます。シミにもいろいろありますが、盛り上がってきたものは液体窒素やレーザー(炭酸ガスレーザー)などできれいに治すことができます。また、普通の平たいシミはレチノイン酸などの外用剤で治します(図4、図5)。ハイドロキノンやコウジ酸などの漂白作用のある外用剤を併用して色素沈着を取っていきます(表5)。皮膚の色や張り、つやなどの若返り効果も期待することができます。老人性のシミであれば専用のレーザー(ルビー、アレキサンドライト、ヤグレーザーなど)を使って治療をする場合もあります。

 以上のように、シミ、シワ、小ジワ、タルミなどそれぞれの症状に応じて、多彩な美容治療を駆使することで外見的には10歳以上若返ることが可能です。こうした若返り治療に対する関心は高まる一方です。ただ、治療によっては、一時的な生活上の負担も伴いますので、専門の形成外科医、美容外科医によく相談されてお受けになるようにして下さい。もちろん、ご紹介した若返り治療には健康保険は適用されませんので、自費診療となります。


 

 皮膚の美容外科ではしみ(色素沈着)、アザ、小じわ、ニキビ、ニキビ痕、黒子などが治療対象です。細かいクスミや毛穴を気にする人も多く見られます。しみ、小じわについては若返り治療の項で述べました。老化以外の色素沈着では、炎症後色素沈着肝斑(図6、7)、そばかす(図8)、先天性や後天性の茶色いアザ(扁平母斑といいます:図9)などがあり、レーザーは使えない色素沈着が多くありますがレチノイン酸治療で治すことができます。未認可薬ですが、レチノイン酸や漂白剤の外用で治療していきます。レチノイン酸は表皮角化細胞のターンオーバーを速め表皮基底層のメラニンを排出します(図10)。血管性の赤アザ(単純性血管腫)や真皮性の青いあざ(太田母斑)はヘモグロビンやメラニンの吸収波長のレーザーを使うことによって治療することができます。黒や青の刺青もレーザーで治療することできます。

 ニキビや肌のくすみなどはケミカルピーリングで治すことができます(表6、7)。代表的な薬剤はフルーツ酸と呼ばれるAHA(アルファヒドロキシ酸)を患部に塗布します。他には、サリチル酸、TCA(トリクロル酢酸)、フェノールなどが使われます。ニキビの治療はケミカルピーリングによって現在大きく進歩しています。レチノイド外用剤の併用によって相乗効果があります(図11、12、表8)。ニキビ痕の治療は非常に難しいものですが、外用剤治療とともにアブレージョン(電動グラインダーで削る)を組み合わせて治療します(図13)。


 

 女性にとって顔の次に多い美容手術はバストの手術です(表9)。最も多いのは豊胸術です。最近は日本人の体格とともにバストも大きくなり、縮小術や乳房下垂に対する固定術などが増えています。その他、乳頭の黒ずみ、陥没乳頭などが治療対象になります。

 豊胸術では、通常はシリコンや生理食塩水のバッグプロテーゼを腋窩の小さい切開から大胸筋下に挿入します(表、図14、15)。近年は乳房の大きい人が多く、使うバッグも200ccから300ccと大きいものが多くなりました。シリコンバッグは米国では販売禁止になりましたが、ヨーロッパでは広く使用されており、安全性の面でも問題ないと言ってよいと思います。生理食塩水のバッグも改良され、以前よりも硬くならなくなりました。切開も小さくて済み、外観の改善も大きいため、豊胸術を受ける患者は増えています。その他、腹部や大腿の脂肪吸引術とともに脂肪注入をすることにより豊胸する方法もあります。

 下垂乳房には乳房を吊り上げる乳房固定術や縮小術を行います。下垂乳房の患者の中には肩こりなどの神経症状が出ている場合もあり、手術を受けることによりそうした神経症状も改善されます。下垂乳房は皮膚が余っていますので切り取る必要があるわけですが、目立つ傷は入れられないので乳輪の周囲をドーナツ状に切る方法があります。余分な脂肪があれば同時に切除します。縫い合わせる皮膚の長さが合わないので、術直後は巾着のようにひだがありますが、時間とともに目立たなくなります(図16)。T字型に切る方法では乳房の下半分を引き締めることができますし、ひだも残りませんが、乳房の下半分に縦の傷痕の線が入ることになります(図17)。

 陥没乳頭の場合は、乳輪を横切る切開から形成術を行います。授乳を控えている方の場合は乳管を温存する必要があるため、乳管周囲の索状物を注意深く剥離して陥没している乳頭を引き出します(図18)。後戻りがあるため、術後1ヶ月程度は装具をつけておく必要があります。授乳の可能性がない年齢の方の場合は乳管を索状物とともに切離してしまいます。

 その他、乳頭乳輪の大きさを変える手術(通常は小さく)、乳頭乳輪の色を変える(通常は色素沈着を取る)などの治療があります。


 

簡単に表現すれば、顔はその人固有の顔面骨の骨組みとその上の軟部組織で作られるそれぞれのパーツで決まります。パーツを治すのは比較的簡単ですが、顔面骨を治すのは容易ではありません。大きな顔面骨の人を小さい顔にすることはできません。しかし、少しでも小さく見えるようにすることはできます。具体的には頬骨の盛り上がりを削り、頬骨弓を切って落としてしまいます(図19)。こうすることにより、顔の中央部の横幅が小さく見えるようになります。この場合は側頭部の被髪部を切ることになります。さらに、口腔内アプローチから下顎骨のエラの部分を落とすことにより、顔面の下半分の横幅も小さくすることができます。この場合、下顎骨の外板を切除します。

 輪郭は正面だけでなく横顔も重要で、横顔の輪郭を変えることで外観の印象は大きく変わります。横顔を直す場合、通常は鼻と顎に手を加えます(図20)。

 顎は長くする、短くする、前に出す、後ろに下げるなどの手術があります。オトガイ部を下や前に出すにはシリコンのプロテーゼを口腔内切開より挿入します。オトガイ部を短くしたり、前後にずらす場合は下顎骨を水平に切って動かすこともあります。ワイヤーやミニプレートで固定します。

 受け口(下顎前突)の場合は歯列の咬合もずれていますので、矯正歯科医の協力を得て、事前に矯正を加えた後で、上下顎骨の骨きり術が必要になります。姑息的に両側4番の歯を抜いて中央部を後ろに下げる簡単な方法もあります。

 鼻の手術では通常は鼻孔内を切開して、シリコンプロテーゼを挿入して高くしたり(隆鼻術)、鼻先を尖らせたりします。鼻翼が南方系人種のように横に開いている場合は鼻翼の縮小術を、だんご鼻の場合は鼻翼軟骨の形成術を行います。


 

 米国で一番多い手術は脂肪吸引術です。平均摂取カロリーが非常に多く、肥満の人が多いからです。日本でも肥満の患者が増えてきており、ダイエットも盛んに行われております。以前は出血が多かったりした手術ですが、現在は治療技術が進み、以前に比べると大分安全に大量の脂肪を切除することが可能になりました。麻酔技術も進み、微量の局麻剤やアドレナリンなどを含む大量の生理食塩水を局所に注入することによって(tumescent法)、全身麻酔を行うことなく十分な鎮痛が得られるようになり、日帰り手術も可能になりました。

 治療部位は腹部、大腿が多く、臀部、下腿、頚部なども行われます。術後は安静、圧迫が必要で、術後1ヶ月ごろからマッサージも必要になります。術後に血腫、表面の凹凸などが生じることがあります。


 

 重瞼術は若い人の中では最も多い手術です。西洋にはこの手術はありません。東洋人には蒙古襞という内眼角の襞がある人が多いため、重瞼術のときに蒙古襞の形成を同時にやって内側の開いた重瞼を作る場合もあります。重瞼術には大きく分けて埋没法と切開法があり、埋没法は全く皮膚切開を行わず糸をかけるだけで重瞼を作ります。侵襲が少ないので腫れが小さく、翌日から普通に仕事ができるなどの利点があります。反面、糸がはずれることがある、蒙古襞がある人では内側の開いた重瞼はできないなどの欠点もあります。切開法は侵襲は大きいのですが、外れることはなく、かなり自由度の高い重瞼を作ることができます(図21)。蒙古襞や眼窩脂肪切除なども同時にやることができます。

 回復期間のいらない治療が人気のある日本では、脱毛も非常に多く行われているものです。脱毛針で電気焼灼する針脱毛が広く行われていましたが、近年に脱毛レーザーが次々に開発され、短時間で行えるためレーザー治療が一般的になりました。しかし、1回で脱毛できるのは50%程度で、何回か繰り返し治療する必要があります。


 

 美容治療はあくまで患者自らの要求によってなされるものであり、医師がすすめるものではありません。健康保険は使えませんので、自由診療となり高額な治療費を必要とします。医師は患者の希望に沿って判断材料となる必要な情報を患者に提供し、患者に治療法の選択などいくつかの判断を委ねることになります。患者が自分の積極性を取りもどすために、自身の強い意志を持って治療を受けることを決めることになります。

 国民性の違いもあり、海外に比較すると本邦は決して美容治療が多く行われている国ではありませんが、レーザーやピーリング、コラーゲンやヒアルロン酸の治療など回復期間の短い治療法の発展とともに、美容治療に関心を寄せる人々が多くなってきました。患者だけでなく、他科の医師の方々にも最低限の知識や理解を持っていただくことが、本邦におけるさらなる美容外科の発展にとって不可欠であります。

 

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