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毛に対するアンドロゲンの影響

吉村浩太郎


アンドロゲンは、女性の多毛症や、男性、女性の禿頭に関与することが知られています。毛嚢および脂腺にアンドロゲンが深く影響することは良く知られていますが、アンドロゲンの血中レベルだけでなく、その反応性も重要な要素です。毛嚢乳頭部にアンドロゲン受容体が存在するようです。もちろん、個人差もあれば、部位差もあります。毛嚢はサイクルがあり、anagen(成長期)、catagen(退行期)、telogen(休止期)の3つがあります。それぞれの期の時間はいろんな要素の影響を受けますが、通常髪の毛ではanagenが4年間も続き、anagenが90%を占めます。一方、大腿ではわずか男性で50日程度、女性ではさらに短くなっているようです。アンドロゲンはanagenの時間を長くし、軟毛を剛毛に変えたりします。

毛乳頭部の線維芽細胞がアンドロゲンの標的と思われますが、受容体の密度や親和性は部位により様々のようです。アンドロゲン感受性のある部位の間においてもいくつかの反応性の違いが報告されています。毛乳頭ではtype2の5αリダクターゼや3βHSD、ステロイド硫酸化酵素活性などが高いことが明らかになっています。アンドロゲンの影響を受けた毛乳頭部の線維芽細胞はパラクラインで働く液性因子を放出し、結果的に表皮角化細胞に働いて毛の成長に影響を与えるようです。EGF、TGF-α、β、IGF-1などの成長因子が毛のサイクルに影響していることも示唆されています。アンドロゲンの影響の一部はこれらの成長因子を介したものかもしれません。

最終的に作用するアンドロゲンはDHT(5αDHT)です。DHTはその前駆体であるT(テストステロン)から毛根で5αリダクターゼによって作られます。さらにDHEA、DHEASも局所においてDHTに変換されうる様です。若禿げの患者の尿中DHEAや血清DHEASは高いことが知られています。DHTの生成を測定した研究でも禿げの患者では高くなっていることが報告されています。毛根にはステロイド硫酸化酵素が存在することがわかり、局所的にDHEAからDHEASが生成され、ひいてはDHTに変換されうることもわかりました。そのため、このステロイド硫酸化酵素の阻害剤も禿げの治療に使えるかもしれないと考えられています。もちろん、他の様々な抗アンドロゲン治療もこれまで広く試行されてきており、今後さらなる進展が見られることが期待されています。抗アンドロゲン剤の一つであるfinasterideは海外で有効性が確認され、現在本邦でも治験が進行しております。エストロゲンやプロゲステロンでも毛乳頭におけるTからDHTへの変換が抑制される実験結果も出ています。

ストレスから来る円形脱毛症はT細胞を介した自己免疫疾患であることが知られていますが、CRH(corticotropi-releasing hormone)の影響が示唆されています。CRHはその受容体(type1、2α、2β)を介して作用し、炎症を引き起こし毛根の破壊をもたらします。円形脱毛症の部位ではtype2βCRH受容体が過剰に発現していることが報告されています。また、文献では甲状腺ホルモンの影響についても述べられています。甲状腺ホルモンが極端に低下すると、telogenの期間が長くなり、脱毛状態が起こるというものです。これは甲状腺ホルモンの投与により改善したとされています。


アンドロゲンに敏感な毛根は、腋窩部、外陰部、顎部、前胸部、背中、腹部や前頭や頭頂部に存在しています。ただ、その作用は場所によりかなり異なっているようです。たとえば、腋窩や外陰部、顔では剛毛になるように作用しますが、前頭部、頭頂部などでは逆に軟毛になるように作用します。こうしたアンドロゲンによる症状を寛解させたい場合に抗アンドロゲン治療が行われることがあります。
多毛症の女性ではアンドロゲンの影響を見る場合に、血中のT(テストステロン)、DHEAS、AD(アンドロステンジオン)などを測定してみます。女性では、Tは卵巣由来のアンドロゲン、DHEASは主に副腎由来のアンドロゲンの指標となります。ADは双方から、同程度生産されます。多毛症の程度は、Ferriman and Gallway scoreで評価されます。この測定方法では、身体の11の部位にわけて、0から4の5段階に多毛の程度をスコアリングします。合計が8以上であれば、多毛症と診断します。白人では、PCOS患者の7割が多毛症という報告があります。また、逆に多毛症の80数%がPCOS患者とされています。ところが、日本人のPCOSではそれほどみられないそうです。人種差が非常に大きいようです。日本人におけるデータの必要性が高いことがわかります。


海外では、アンドロゲンによる女性のアロペチア(禿げ)の問題も指摘されています。50歳以前の女性の30%がなんらかの形でこの影響を受けていると記されています。髪がうすくなったとする女性患者の60%が何らかの内分泌異常やPCOSを呈しており、16%がアンドロゲンの軽度上昇が見られるそうです。高プロラクチン血症が5%に見られるようです。これらについても人種差が大きいと予想されるため、日本人におけるデータが待たれるところです。別の文献では、女性のアンドロゲン性禿げ患者において、その症状の程度(Ludwig's classification)と血中3α-AdiolG(5α-androstane-3α,17β-diol glucuronide)レベルは正の相関があり、血中SHBGとは負の相関があったと報告されています。また、正常患者とは血中DHEA,DHEASでも有意差が見られたと報告されています。


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