Cosmetic in Japan 美容医学への扉-東京大学美容外科-アンチエイジング
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美容外科と再生医療

吉村浩太郎 (2005年10月)

美容医療
 美容的な改善を目的とする美容医療は元来外科的手法しかなく、美容外科という言葉で呼ばれてきた。90年代以降のレーザーをはじめとする美容治療技術の進歩とともに美容医療においては皮膚科的治療や内科的治療が過半を占めるようになり、さらに再生医学による美容治療も研究開発が進められている。美容を目的とした再生医学的アプローチのターゲットは、大きく分けて、@皮膚、A脂肪(軟部組織)、B毛髪、である。

シワ改善を目的とした再生医療
 1990年代に入り、シワの治療目的でfiller(注入剤)と呼ばれる充填剤が開発された。手術と異なり侵襲が小さいためダウンタイムが無く、非常に重宝されており、わが国でも牛コラーゲンの製品が承認されている。近年、他家新生児培養線維芽細胞から産生されたヒトコラーゲンを抽出して注射剤とした製品がFDAで承認され、ウシ製品に比べてアレルギーが少なく事前のアレルギーテストが不要とされている点が優れている。いずれも時間とともに半年から1年で吸収され消失する。
一方、同様の目的の治療法として、細胞外基質ではなく、細胞を使った製品の開発も進められている。耳の後ろなどから採取した皮膚サンプルから培養自己小片から線維芽細胞を採取し培養して充填した注射剤の臨床研究が米国、欧州、日本などで行われている。体積は小さいため反復注射が必要とされているが移植後の効果が持続することが期待されている1,2)。

軟部組織増大を目的とした再生医療
 先天奇形や後天性変形による陥凹変形を修正する目的で、また美容目的で組織増大を行う場合には、有茎皮弁移植、血管柄付き組織移植や自己脂肪注入、人工物注入などが行われる。美容的には傷を残さない注入治療が優れているが、人工物は異物反応、自己脂肪注入は組織壊死が起きやすいという問題点を抱えていた。一方、痩身目的で行われる脂肪吸引で採取される吸引脂肪には、血管や脂肪などへの分化が期待できる脂肪由来(前駆)細胞群(adipose-derived cells; ADC)が含まれていることがわかり、骨髄に変わる幹細胞源として注目されている3)。ADCは主にCD34陽性の間質細胞(adipose-derived stromal cells; ASC)で、血管内皮(前駆)細胞、血管周細胞なども含まれている。ADCは大量採取が可能であるため培養せずに新鮮な状態での臨床応用も可能である。ADCを別に採取し混合して移植することにより、自己脂肪注入の効果を高める治療法が試みられている(Cell-assisted lipotransfer; CAL)。移植される吸引脂肪はADCの含有数が正常脂肪に比べて少ないこと、またADCは低酸素条件下でVEGFをはじめとする血管新生促進物質を分泌することがわかっている4)。

毛髪再生を目的とした再生医療
 表皮幹細胞は表皮、毛包、脂腺など皮膚付属器などに分化することができ、毛包は表皮幹細胞が毛乳頭細胞からのシグナルを受けて形成されることがわかっている5)。男性型脱毛症(禿髪)の毛髪再生治療に向けて、動物実験においてはいくつかの実験モデルにおいて細胞移植により安定的な発毛がすでに見られている。しかし、侵襲性の小さい移植技術の開発、再生毛の太さや方向の制御、など、解決しなければならない課題もまだいくつか残されている。正常な機能を維持している自己培養毛乳頭細胞単独で、もしくは自己培養毛乳頭細胞と自己培養表皮幹細胞とを混合して、禿頭皮膚に移植する形での臨床研究も始まっている。現在臨床で行われている自家植毛と異なり、極少量の毛包から多数の毛髪を再生することを目的としている。
 
おわりに
 再生医療の領域では、不死化リスクの少ない成人幹細胞を使うとは言え、培養に伴う諸問題を解決するために治療法の確立にはまだ一定の期間を必要とすると考えられており、とくに美容領域においては培養しない新鮮細胞や基質の利用から少しずつ普及していくと思われる。

参考文献
1) Fagien, S. Facial soft-tissue augmentation with injectable autologous and allogeneic human tissue collagen matrix (autologen and dermalogen). Plast. Reconstr. Surg 105:362-373, 2000.
2) Homicz, M.R., Watson, D. Review of injectable materials for soft tissue augmentation. Facial Plast. Surg 20:21-29, 2004.
3) Zuk PA, Zhu M, Mizuno H, Huang J, Futrell JW, Katz AJ, Benhaim P, Lorenz HP, Hedrick MH. Multilineage cells from human adipose tissue: implications for cell-based therapies. Tissue Eng 7:211-228, 2001.
4) Rehman J, Traktuev D, Li J, Merfeld-Clauss S, Temm-Grove CJ, Bovenkerk JE, Pell CL, Johnstone BH, Considine RV, March KL. Secretion of angiogenic and antiapoptotic factors by human adipose stromal cells. Circulation 109:1292-1298, 2004.
5) Claudinot S, Nicolas M, Oshima H, Rochat A, Barrandon Y. Long-term renewal of hair follicles from clonogenic multipotent stem cells. Proc Natl Acad Sci USA 102:14677-82, 2005.


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