1.老化に伴うホルモンの変化
ホルモンには核内受容体を介して作用する脂溶性ホルモン(レチノイド、ステロイド、アンドロゲン、エストロゲン、プロゲステロン、甲状腺ホルモン、ビタミンDなど)と細胞膜の受容体を介するペプチドホルモン(成長ホルモン、インシュリン、IGF-1、グルカゴンなど)が存在する。これらのホルモンの多くは加齢とともにその発現量が減少することが知られている。
老化に伴うホルモンの減少を薬剤の投与により補填することにより、ホルモン減少由来の機能低下を予防、治療しようという試みがホルモン補充療法(HRT)である。女性の閉経期に現れる更年期障害諸症状に対するエストロゲン投与は保険適応になっているが、それ以外についてはすべて自由診療となる。
老化に伴うホルモンの変化として、大きく4つに分けることができる。@somatopause(成長モルモン系の変化)、Aadrenopause(DHEAを始めとする副腎系の変化)、Bmenopause(女性ホルモン系の変化)、Candropause(男性ホルモン系の変化)、である。
2. Somatopause
1990年のRudmanら[1]が成長ホルモンによる体脂肪率減少、皮膚厚増加、骨密度増加などを報告して以来、成長ホルモン(somatropin、growth
hormone = GH)が抗老化治療の一環として考えられるようになった。GHは下垂体後葉から放出され、視床下部からの放出ホルモン(GH
releasing hormone)、抑制ホルモン(somatostatin)に制御される。下流では、肝臓に作用し、IGF-1(insulin
growth factor-1)の分泌を刺激する。GHは脂肪に直接作用し、脂肪分解・糖新生作用を示すとともに、IGF-1を介して蛋白合成(筋肉)・骨成長作用を示す。GHは睡眠中に放出され日内変動が大きいため、IGF-1(ソマトメジン)の血中濃度で代用して測定されることが多い。IGF-1値も年齢とともに減少することが知られており、治療ではヒトリコンビナントGHの投与(毎日皮下注)により250-350ng/mlを目標値とされる(図1)。副作用としては、浮腫、関節炎、耐糖能低下などが挙げられる。
3. Adrenopause
DHEA(dehydroepiandrosterone)はコレステロールから主に副腎で合成されるホルモン前駆物質で、やはり年齢とともに減少することが知られている。テストステロンをはじめとする性ホルモン全般の原料となり、血中濃度は平均して女性よりも男性で高い。日内変動があるためDHEA-S(dehydroepiandrosterone
sulfate)の血中濃度が測定されることが多い。海外では医薬品ではなく1錠25mg程度のサプリメントとして販売されており1日25-100mg程度投与される。副作用は極めて少ないが、過剰投与は避ける。
4. Menopause
閉経期に卵巣機能低下により女性ホルモンは急激に低下し、多くの女性で顔面紅潮・易疲労感・多汗を始めとする更年期症状が見られる。それ以前に30歳代後半から卵巣機能の低下を反映してLH(黄体刺激ホルモン)やFSH(卵胞刺激ホルモン)が上昇してくる患者も少なくない。HRTにはエストロゲン貼付剤もしくは内服薬が使用され、プロゲステロンの内服も併用されることもある。昨年の米国WHIの報告において結合型エストロゲンと酢酸メドロキシプロゲステロンの長期投与により冠動脈疾患、脳卒中、浸潤性乳癌などのリスクが増えることが報告された。しかし、対象集団(高BMI患者が多い)は平均的日本人とは大きく異なるなどいくつかの問題点があり、現在国内では対症的な少量使用によるHRTが推奨されている。
天然型エストラジオール貼付剤、合成型エストロゲン内服剤などにプロゲステロン内服剤の併用が行われることが多く、子宮摘出症例にはエストロゲンの単独投与も行われる。副作用は血液凝固能亢進、乳癌・子宮体癌発生率上昇、IGF-1低下(15-25%)、高PRL血症など。
5. Andropause
男性ホルモンの血中濃度は20歳前後をピークにゆるやかな下降線をたどる。人種差も大きく、アジア人(特に日本人)は欧米人に比べて血中テストステロン(T)値が低いとされる。Tはそのままでも受容体リガンドとなるが、よりアンドロゲン受容体に親和性の高いDHT(dihydrotestosterone)に5αリダクターゼにより変換される。血中ではアルブミンもしくはSHBG(sex
hormone binding grobulin)と結合しているが、一部はbioavailableな遊離テストステロンとして存在している。
40-50歳代からの性欲低下、性機能低下、体脂肪増加、うつ症状など、男性ホルモン減少による諸症状は近年、男性更年期という新しい疾患概念で捉えられるようになった。治療にはDHEA、androstendioneなどの前駆物質の投与、HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン:LH作用を持つ)による精巣の刺激、T投与(デポー剤125mg筋注、1回/1-2週)などが行われる。投与量は異なるが、女性に対しても行われる。副作用は、にきび、前立腺肥大、エストロゲン上昇など。
6. まとめ
皮膚付属器、特に毛包や皮脂腺と性ホルモンの関係については良く知られているが、皮膚の老化とホルモンの因果関係については、エストロゲン以外についての報告はほとんどなく、エストロゲンについてもこれまでのところホルモン治療の臨床効果は些細である。ホルモンは生理作用は著明であるが製剤・投与法によっては副作用も大きいため、今後DDS技術の進歩、シグナル特異的ホルモン製剤など全身的副作用を回避できる製剤の開発が待たれる。
1. Rudman D, Feller AG, Nagraj HS,
et al. Effects of human growth hormone in men over
60 years old. N Engl J Med. 1990;323(1):1-6.
図1.健常人におけるIGF-1の血中濃度(筆者らのデータ)
同年齢でも個人差は大きいが、全体的には年齢とともに減少する。値の減少は40歳前後から緩やかとなる。血中DHEA-Sも全く同じような変化を示す。
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