1)治療適応
しわ、たるみにおけるトレチノインなどレチノイドの適応は、ちりめんじわなどの細かいシワである。それ以上の深いシワやたるみなどに対しての効果は難しいため、手術、fillerなど他の治療法が望ましい。一方、トレチノイン療法では、くすみ、質感、色つやの改善など付随する抗加齢効果は十分に期待できる。
2)もっとも効果的な部位・ほとんど効果のない部位
顔面では全般的に効果が期待できる。四肢、躯幹では効果が落ちる。
3)治療原理
トレチノイン(all-transレチノイン酸)は核内のレチノイン酸受容体(retinoic acid
receptor; RAR)の天然リガンドとして、生体内におけるレチノイド、カロテノイドの生理活性の主役を担っている。組織融解や蛋白凝固を引き起こすグリコール酸やTCAなどのケミカルピーリング剤とは異なり、レチノイド特有の情報伝達経路を介して細胞に働きかける。RARはレチノイドX受容体(retinoid
X receptor; RXR)とヘテロ二量体を形成し、遺伝子上の特定認識エレメントに結合する。トレチノインは海外では尋常性?瘡の治療薬として古くから使用されているが、光老化の諸症状を改善する効果があることが明らかにされてきた。トレチノインの外用の継続により表皮角化細胞の強い増殖及び分化促進がみられ表皮は肥厚し角質はコンパクトになる。表皮のターンオーバーが亢進し、落屑がみられ、表皮内メラニンの排出が促され、いわゆる肌の「くすみ」が改善される。トレチノインの外用により組織学的には2週間程度の短期間で、表皮の肥厚、劇的な表皮メラニンの減少が認められる(図)。表皮ではヒアルロン酸などの粘液性物質の沈着が促され、真皮乳頭層での血管新生や線維芽細胞によるコラーゲン産生をも促進する働きがあり、いわゆる「皮膚の張り」を取り戻させる働きがあるとされる。多くの基礎研究を通して、紫外線によるelastosis、細胞外基質分解酵素(MMP)活性の上昇、真皮内細胞外基質産生の減少などのしわ形成のメカニズムに対して、直接的に、また抗AP-1作用などを通して、抑制的に働くことが示され、抗老化目的でも海外では広く使用されるようになった(90年代半ばにFDAに抗老化目的でも認可された)(4,
5, 6)。
レチノイドの外用を続けても、落屑、紅斑を伴う皮膚炎は段々なくなっていく。レチノイド外用剤の濃度をいくら上げても同じことが起こり、これはレチノイドへの耐性が獲得されることが原因である。これはレチノイドの内服治療においても同様のことが見られる。副作用がなくなって使いやすくなったようにみえるが、実際にはレチノイド特有のシグナル伝達自体が抑えられ、本来の効果が減じている状態である。耐性獲得の原理は明らかとされていないが、1つの理由にレチノイドによって直接upregulateされるCRABPII(cellular
retinoic acid binding protein II)が細胞質内で遊離のトレチノインを捕捉し核内への移行を妨げていることがレチノイドシグナルに共通するnegative
feedback機構として働いている可能性が挙げられる。
4)治療法の実際 (写真・図を用いて説明)
著者らは小じわを目的として治療する場合は、トレチノインをアグレッシブに使用するシミ治療とは異なり、マイルドに投与する。水性ゲル基材の0.1%トレチノインゲルの1日1回もしくは2日に1回顔面全体に極薄く外用することから始めて、耐性の獲得とともに徐々に外用の回数を増やしたり、薬剤の濃度を高くしていく。小じわの治療の目的であれば、親水軟膏やワセリンを基剤としたトレチノイン製剤でも用が足りると考えられる。本邦では未承認だが、Retin-A?(ジェル、O/Wクリーム)やRenva?(W/Oクリーム)などを海外から個人輸入をして使用することも可能である。くすみなど色素沈着を伴う患者には漂白目的にハイドロキノン軟膏を併用しても良い。表皮剥離に伴い乾燥感が出るため、保湿ケアを行う。さらに紫外線ケアとしてサンスクリーンを併用することが望ましい。
5)治療効果と持続期間
使用開始後2、3日で薬理効果が現れ、落屑や発赤がみられる。真皮の変化が見られるまでには1ヶ月以上の長期投与が必要である。表皮の変化は短期的に、真皮の変化は長期的に継続すると考えられている。投与部皮膚に淡い赤みが生じることが多いが、rosy
glowと呼ばれ、血色が良く見えるとされている。トレチノイン外用を続けても徐々に耐性を獲得するため、計画的な間歇使用(2〜3ヶ月使用後、1〜数ヶ月使用中止)を行わせている。半永久的に継続することが可能である。
6)合併症の対処法および予防対策+患者が効果に満足しない頻度
使用開始後より皮膚炎による発赤、落屑などを認める事が多い。症状が強い場合は投与量、使用回数を減らすことで症状を軽減させることができる。通常はトレチノインへの耐性を徐々に獲得し、投与を継続させていても皮膚炎は自然に消失する。逆に使用初期に皮膚炎の見られない場合は、濃度を上げるか回数を増やしても良い。
効果についてはくすみなど色素沈着への効果ははっきりしているが、しわについてはわかりにくい。表皮剥離により皮膚が乾燥し一時的に小じわが多くなったように見えることがある。そのため保湿ケアには十分気を配り、患者に作用機序や期待できる効果の程度を理解させる必要がある。
7) 症状ごとのベスト治療効果の処置前後の症例写真の呈示
{症例1}17才女性:顔面の「脂性肌」および「肌の荒れ」を主訴に来院した。既往歴、家族歴において特記すべき事はない。患部への0.1%トレチノイン水性ゲルの1日1回外用を開始した(左:治療前)。2ヶ月の外用と1ヶ月の休薬期間を1クールとして、2クール6ヶ月間使用させた(右:治療6ヶ月目)。患者の主訴は1クール目でほぼ解決されていた。
治療前と2クール経過後の写真と比較すると下眼瞼の「しわ」が目立たなくなり「肌の張り」が強くなっている。また頬部およびTゾーンの毛穴の狭小、さらには全体の「肌のくすみ」「きめ」の改善も確認される。トレチノイン以外にはビタミンC含有ローションを使用させた。ハイドロキノンなどの漂白剤は使用させていない。
このような10代の患者でも、photoagingが始まっていると考えて治療に当たる必要がある。
{症例2}65才女性:顔面の若返り目的に低侵襲な治療を希望し、頬部への0.1%トレチノイン水性ゲルとハイドロキノン軟膏を1日1回外用させた(左:治療前)。2ヶ月の外用と1ヶ月の休薬期間を1クールとして、2クール6ヶ月使用させた(右:治療6ヶ月目)
下眼瞼の皺の及び「きめ」の改善、毛穴の狭小のみならず、全体的に存在した老人性色素斑が消失している。
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face peeling and rhytidectomy. A combined approach
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2) Baker TJ, Gordon HL, Seckinger DL. A second look
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3) Baker TJ, Gordon HL, Mosienko P, Seckinger DL.
Long-term histological study of skin after chemical
face peeling. Plast. Reconstr. Surg. May; 53: 522-5
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4) Kligman A.M. The treatment of photoaged human skin
by topical tretinoin. Drugs. Jul; 38: 1-8. 1989
5) Kligman A.M. Guidelines for the use of topical
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Dermatol. 21: 650- 654. 1989
6) Schwartz E., Cruickshank F.A., Mezick J.A., Kligman
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9) Griffiths CE. The role of retinoids in the prevention
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