Cosmetic in Japan 美容医学への扉-東京大学美容外科-アンチエイジング
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Web Master -Kotaro Yoshimura, M.D.-


トレチノイン治療の総括

吉村浩太郎 (2005年10月)

What’s new
我が国の美容皮膚科領域で最も多い愁訴はシミである。シミ治療におけるトレチノインの役割は“表皮内メラニンの排出”という新しい治療コンセプトに集約される。レチノイド(中でもトレチノイン)は表皮内メラニンを短期間で効率的に排出させることができる現時点では唯一の薬剤といえるであろう。皮脂腺機能抑制、角栓剥離作用からコメドなどの?瘡に有効で、MMP抑制など真皮への治療効果も期待できる。高い有効性を示す一方で、@副作用である皮膚炎のマネジメントとA薬剤の安定化(トレチノインは光と熱に非常に弱い)が課題である。解決策には、@リスクベネフィットバランスや治療対象を考慮した薬剤の投与方法(投与量、投与回数、塗布部位、併用薬剤など)における工夫、A合成レチノイドの開発による副作用軽減、B新しいDDS製剤による副作用軽減、が挙げられる。現在、安定化し徐放化したナノ製剤の試行も行っている。レチノイドに変わる副作用のない表皮ターンオーバー促進剤の開発も期待したい。

Essence
 トレチノインを用いたシミ治療は、トレチノインにより表皮メラニンの排出を促し(outを増やす)、ハイドロキノンによりメラニン新生を抑えるとともに本治療の皮膚炎による炎症後色素沈着も抑える(inを抑える)、のが治療原理である1)。肝斑、炎症後色素沈着(単発の炎症によるもの)、雀卵斑、過角化を伴わない日光性色素斑(真皮色素沈着を伴わないものに限る)など、過角化を伴わない表皮内色素沈着においては、トレチノイン治療は高い有効性を示す2)。一方、過角化状態のシミ(外用剤であるため)や真皮内の色素沈着には効果が期待できない。
 従って、さまざまな種類のシミやアザに対応するためには、レーザー治療との併用が必要となる、逆に言えばレーザー治療ではカバーしきれない広範囲のシミやアザの治療が可能となった(図1)。過角化を伴う脂漏性角化症はスキャナー付炭酸ガスレーザーで、過角化を伴う日光性色素斑はルビーレーザー等でまず治療を行う必要がある(炎症後色素沈着を生じた場合はトレチノイン治療で治療可能)。表皮色素沈着に加えて真皮内メラノーシス(真皮内メラノゾーム沈着)を伴う場合(アトピー性皮膚炎後色素沈着、摩擦黒皮症、色素沈着型接触性皮膚炎など)は、まずトレチノイン漂白治療により表皮内メラニンを除去した後でルビーレーザー照射により真皮内メラノーシスの治療を行うと効果が高い。表皮色素沈着に加えて真皮内メラノサイトーシスを伴う場合(ADM)には、トレチノイン漂白療法とルビーレーザー照射を組み合わせて3回繰り返すとほぼ完全に消失させることができる。表皮内メラニンを除去することにより、その後のルビーレーザー照射の効率を上げるとともに、レーザー後の炎症後色素沈着を抑えることができる3)。
 治療効果を損ねることなく、副作用である皮膚炎を抑えることは現状では難しい。投与量が減ると、強制的に速くしたターンオーバーは遅くなる。もたもたしていると薬剤に対する耐性ができて、やはり効かなくなる(休薬期間を置けば感受性がまた回復してくる)。
 にきびや小じわなどの治療であれば、投与量を少なくして治療することができるので、その皮膚炎も十分に許容できる程度以下である。
 トレチノイン外用治療は、皮膚炎の副作用を伴う、化学的に不安定の薬品である、承認薬ではないため自家調合が必要となる、などの欠点があるが、その高い有効性ゆえに我が国でも普及してきた。この両刃の剣をいかに副作用を最小限にしてその有効性を臨床結果に結びつけるかは、患者に対するわかりやすい的確な指導が鍵となり、治療医の管理下で患者が正しく理解し正しく使用することが重要である。

Why important
シミには日光性色素斑などレーザーで比較的容易に治療できるものもあれば、肝斑や炎症後色素沈着など逆に悪化させてしまうものもある。ハイドロキノンをはじめとする美白剤(漂白剤)は予防的にメラニン新生を抑えることができるが、既存の表皮内メラニン蓄積を排出させることはできない。あらゆる色素沈着の治療をカバーするためには、またシミを積極的に短期間で治療するためには、トレチノインを用いた治療が不可欠となる。また東洋人の美容皮膚治療では炎症後色素沈着の対処法を持つ意義は非常に大きい。

Reference
1) 吉村浩太郎:トレチノインとレチノール、in 光老化皮膚(川田暁編集)、pp140-152、南山堂(東京)、2005.
2) Yoshimura K, Sato K, Aiba E, Matsumoto D, Machino C, Nagase T, Gonda K, Koshima I. Repeated treatment protocols for Melasma and Acquired Dermal Melanocytosis. Dermatol Surg, in press.
3) Momosawa A, Yoshimura K, Uchida G, Sato K, Aiba E, Matsumoto D, Mihara S, Tsukamoto K, Harii K, Aoyama T, Iga T. Combined Therapy Using Q-Switched Ruby Laser and Bleaching Treatment with Tretinoin and Hydroquinone for Acquired Dermal Melanocytosis. Dermatological Surgery, 29: 1001-1007, 2003.




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