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アンドロゲンの生理
吉村浩太郎
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アンドロゲンの過剰な作用によってもたらされる疾患に、男性では前立腺肥大、前立腺癌、禿頭など、女性では多毛症、ニキビ、無月経などの婦人科疾患などがあります。PCO(多嚢胞性卵巣症候群)では白人ではアンドロゲン過多による症状が多いようですが、日本人のPCOではあまりそういうことはないそうです。
アンドロゲンは、女性では主に副腎と卵巣で、男性では副腎と精巣で作られます。最終的には細胞内の受容体に作用しますが、最終作用物質であるDHT(dehydrotestosterone)に至る過程では、DHEA(dehydroepiandrosterone)、DHEAS(dehydroepiandrosterone
sulfate)、AD(androstenedione)、T(testosterone)などがあり、血中に存在します。Tは5α-reductaseによりDHTに変換されます。
女性では卵巣で活発にアンドロゲンが生産されますが、その卵巣での生産はLH、インシュリン、IGF-1の影響を強く受けるようです。卵巣で作られるアンドロゲンは主にADとTです。副腎で作られるアンドロゲンでは、DHEA、DHEASが非常に多く、ADも多く作られているようです。
代謝は主に肝臓で行われます。他には2経路あり、ひとつは筋肉や脂肪組織で芳香化されます。こうしてADやTは、E1(estrone)やE2(estradiol)に変換されます。もう一つは、Tは5α-reductaseによりDHTに変換されます。5α-reductaseには2種類あり、type1は皮膚の主に皮脂腺、とくに頭部皮膚にあります。Type2は主に前立腺や外陰部の皮膚にあります。
TやDHTは血中で強くSHBG(sex hormone binding protein)やアルブミンに結合して流れています。SHBGは、甲状腺機能低下症、アルコール性肝障害やエストロゲンの投与などで増加することが知られています。SHBGが増えると遊離Tが減って、Tの作用が減弱するとともにTの代謝、排泄が遅くなります。一方、肥満、高インシュリン血症やアンドロゲン投与ではSHBGが増加することが知られています。DHEASはDHEAやADと違い、血中の半減期が長く、1日の日内変動も小さく、これらは主にアルブミンと結合して流れています。
血中Tの測定には、総Tや遊離Tなどが使われますが、総TはSHBGと結合したTも含まれていますので、実際に生理的T活性とは相関しません。また、遊離Tは通常はELISAで測定されますが、ある程度の相関はあるのですが、実際のbioavailableのTの20分の1くらいしかないと言われています(Vermeulenら)。アルブミンに結合して流れているTがあり、それについては少なくとも部分的にはbioavailableであるといわれています。すなわち、その分の補正が必要だということで、簡易的にT[nM/L]×100/SHBG[nM/L]をFAI(free
androgen index)として使ったりされます。ただ、アルブミンが上昇する妊婦(5−6倍にも上昇)などでは注意が必要です(非常に高い値が出ても実際の高アンドロゲン症状は出ない)。また、SHBGはestradiolとも結合するため、estradiolが非常に多い場合も誤差が生じる可能性があります。総T=遊離T+アルブミン-T+SHBG-Tで、アルブミン-Tは通常は遊離Tの22倍程度、SHBG-Tは遊離Tの30-100倍程度(SHBGの濃度にもよる、性差もある;成人男性で多く、女性で少ない)と思われます。ある報告では、総Tの2%程度が遊離Tで、68%がアルブミンと弱く結合しているbioavailableTで、残りの約30%がSHBGと強く結合しているnon-bioavailableTであるとしています。 |
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