アンドロポーズ(男性更年期)とその治療
吉村浩太郎
アンドロポーズとは、男性において加齢に伴って生じる男性ホルモン(アンドロゲン)の低下およびそれに付随する身体の変化を指します。男性における女性の更年期に相当するもので、女性のように急激な変化が起こるわけではなく、30代後半から50代に向けて徐々に進行していきます。日本人は欧米人に比べて一般的にアンドロゲンが少ない傾向があり、加齢による変化やストレスなどにより、より影響が出やすいと思われます。アジア人の中でも日本人は低い傾向があるそうで、日本における少子化の問題とも関係があるかもしれません。
アンドロポーズにおいて最も深刻なことは、遊離Tが減少することでしょう。Tの減少によって中年男性におなじみのお腹の出っ張りや筋肉の衰えがあらわれます。Tは代表的アナボリックステロイドですので、筋肉の衰えが見られるとともに、基礎代謝も減り、脂肪率の増加が見られる傾向があります。もちろん、男性の性機能にも深く関与していますので、性機能の衰え、日常生活における活力の低下もあるでしょう。攻撃的な感情にも関与しますので、年齢とともにあまり怒りっぽくならなくなることとも関係があるのでしょう。この男性版更年期症状には、セックスへの関心の低下、勃起やその維持の困難、性的充足感の減退、疲労、うつ状態、炎症、うずきや痛み、凝りなどがあります。
一方、エストロゲン血中濃度は同じであるか増加したりするようです。その結果、テストステロンとエストロゲンのアンバランスが自然老化に伴う健康の悪化や活動障害の直接的原因となりえます。こうした現象の起こる理由の一つは、加齢に伴いTが芳香化されてエストロゲンへ転換されることです。エストロゲン過剰とテストステロン不足が心臓発作や心臓麻痺の危険性を高めると言われることもあります。アンドロゲンの減少にともなってSHBG(sex
hormone binding globulin)の増加もみられることがあります。SHBGはT(テストステロン)を拘束し、加齢に伴いこのホルモンの量と効果を抑制するタンパク質です。
Tの減少は、血中コルチゾールの増加をもたらし、退行性変化を増長するという記載もあります。
こうした変化を改善しようとする試みが行われています。食事や生活習慣を改善するアプローチもありますが、薬剤を用いて治療する方法には下記のようなものがあります。
@DHEA:内服薬ですが、安全性が高いため、米国ではサプリメントとして購入できます。一般的には副腎で産生される、性ホルモンの前駆体です。これについては、多くの著作などがあります。
AHCG:LHと同様の作用を持ちます。とくにまだ精巣が十分機能していると考えられる年齢では、Tを投与することは精巣の萎縮など悪影響も考えられるために、より安全な方法として考えられているようです。通常はDHEAと併用されます。Tが低くて、LHが低いときは特に効果が期待できると思われます。副作用としては、浮腫や女性化乳房などが考えられるようです。
BT:精巣の機能が十分でなく、刺激ホルモンなどでは反応が期待できないときは、Tを直接投与することになるでしょう。TはSHBGを下げる効果もあるようです。60歳以上のような高年齢でははじめからTを投与しても良いようです。DHEAとの併用も行われています。ヘマトクリットやエストロゲンの上昇が起こりうるので、PSAとともにモニタリングが欠かせません。エストロゲンが過剰な場合は、投与量を減らすとともに、Tよりエストロゲンへの転換酵素の阻害剤anastrozoleを投与します。Tを投与する場合は前立腺肥大、腫瘍、継続投与による睾丸萎縮などにも注意する必要があります。
CGn-RHアナログ:LHが低いときは、少量のGn-RHも有効かもしれません。下垂体を刺激して、LHの分泌を促します。
DhMG:LH、FSH両方の作用を持ちます。造精機能も刺激したい場合は選択肢になりえます。hCGとの併用が多いようです。
E抗エストロゲン剤:clomiphene citrateなど。視床下部や下垂体にある性ステロイド受容体に拮抗的に結合し、内因性性ステロイドホルモンによるnegative
feedbackを阻害して、GnRHやゴナドトロピンの分泌を促す。
Fbromocriptine:麦角アルカロイドで、血中PRLが高い場合に用いる。ドーパミン作働薬で、下垂体前葉PRL産生細胞のPRL分泌を直接的に抑制する。高PRLはGnRHの分泌抑制、T産生抑制などをもたらすようです。
Gpregnenolone:DHEAと同様な形で使用されることがあります。
Tの投与法にはいくつかの剤形があります。
@注射薬:エナルモンデポー(teststerone enanthate), ほかにtestosterone cyprionate、testosterone
propionateなど。2週間(か1週間)に1回、125mg-250mg程度を筋肉内注射します。一般的にはエステル化して効果持続期間を長くしたものが使われます。
A内服薬:methyltestosterone(エナルモン、テスチノン) 25-50mg/day 肝機能に注意。floxymesterone 力価が高い、2-10mg/day、芳香化しにくいといわれる。ethylestrenol(オラボリン) 芳香化がないので、エストロゲン過剰の心配がないようです。testosterone
undeconate(Andriol(TM))は、肝機能障害が少なく、脂溶性であるため牛乳や食事とともに摂取し、40mgカプセルを1日4回飲む必要がある(効果が短い)。芳香化は小さい。Proviron(TM)(mesterone:
1-methyl DHT)は経口DHTであるため芳香化がない長所がある。
B貼付剤:Androderm(TM) 陰嚢以外の場所に毎日1枚貼ります、約8時間で最高血中濃度になります、5mg/day。Testoderm
TTS(TM) 陰嚢に貼ります、5mg/day。
Cジェル:Androgel(TM)1% 5g gel/day。
D舌下錠: 使いやすいですが、半減期が短い欠点があります。methyltestosterone 5-10mg/day,
testosterone propionate 5-20mg/day。
Eインプラント:皮下に埋め込みます。4-6ヶ月ごとに入れ替えます。
[備考]Anabolic(筋肉増強)目的: anabolic目的の場合は、19-nortestosterone、methandrosterone、oxymetholone、ethylesterenolなどのanabolic作用の強いもの(androgenic:anabolic=1:3以上)が使われます。Andropauseにはandrogenic作用の強いもの(androgenic:anabolic=1:1)が使われます。19-nor-4-androstenedioneもスポーツ選手などに多く使われています。
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