Cosmetic Medicine in Japan -東京大学美容外科- トレチノイン(レチノイン酸)療法、アンチエイジング(若返り)
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アンチエイジング目的の非手術美容治療

吉村浩太郎 (2006年2月)

1.はじめに−非手術美容治療
従来はフェイスリフトなどの外科的治療しかなかったアンチエイジング美容治療は、90年代に入り、コラーゲンをはじめとする注入剤fillerの開発、美容を目的としたレーザー・光治療技術の発達、ケミカルピーリングの再評価、そしてボトックスの美容目的使用等により大きな進展を遂げた。ホルモン療法など内科的なアンチエイジング治療についても90年代半ば以降、米国を中心に抗加齢医学として盛んに試みられるようになった。まだ科学的エビデンスにかける状況ではあるが、臨床データの蓄積は続いている。加齢に伴う脱毛(薄毛)も老化の1つとみなすならば、抗アンドロゲン内服療法などの禿髪治療もアンチエイジング治療の1つと言える。近年では細胞療法などの再生医学的アプローチの研究も精力的に行われている。
米国形成外科学会(ASPS)の2004年統計において美容手術約174万件に対して非手術療法は約747万件に及び、美容手術がほぼ横ばいの成長であるのに対し、非手術療法はさらに増加を続けている。今後の美容医学の発展とともに、非手術療法が成長する傾向は長期的に続くことが予想される。本稿では前半はレーザー(別項参照)を除く各非手術美容治療法について、後半では現在行われている美容目的の再生医療の取り組みについて概説する。

2.アンチエイジングを目的としたさまざまな非手術美容治療法
1) 外用剤
 アンチエイジングとして一定の臨床効果が期待できる外用剤として、レチノイドと抗酸化剤がある。エストロゲンなどのホルモンの外用療法も試行されたが現在に至るまで、科学的な有効性の評価を得るに至っていない。レチノイドは4半世紀前にステロイドホルモンに続く革命的外用剤として登場し、ニキビの治療に始まり、老化皮膚や皮膚悪性変化の治療などに試みられてきた。レチノイドは、表皮においては表皮角化細胞の増殖を促進するとともターンオーバーを早め、角質の剥離、表皮内メラニン(シミの原因となる)の排出を強く促し、さらには表皮内のムチン様物質の沈着が見られる。従って、菲薄化した表皮は厚くなり、シミは薄くなり、皮膚はみずみずしくなる。真皮においてはコラーゲン産生促進、MMP抑制、血管新生促進など、とくに光老化症状の改善効果が見られる。メラニンの産生抑制作用の強いハイドロキノン(チロジナーゼ阻害作用)も漂白を目的に広く使用されている1)。アスコルビン酸やコエンザイムQ10をはじめとする抗酸化剤については酸化ストレスに対する予防効果、紫外線による皮脂の酸化抑制などが知られている。
《補足》レチノイドを使ったシミ治療
加齢に伴うシミには、老人性色素斑(日光性色素斑)、肝斑などがある。老人性色素斑はとくに発症からの経過が長い場合は角質が肥厚している場合があり、その場合はQスイッチレーザーの使用が望ましいが、それ以外ではレチノイド(トレチノイン)およびハイドロキノンを使った外用漂白療法で治療をすることが可能である1,2)。トレチノインは表皮のターンオーバーを加速し表皮内メラニンの排出を促す効果がある。一方、ハイドロキノンはチロジナーゼ酵素阻害剤でメラニンの産生を抑える。両者をうまく併用することにより、表皮内の色素沈着を短期間で効率的に改善することができる。副作用として、トレチノイン使用中の皮膚炎がみられ、現在トレチノインのナノ製剤を用いた治療法の改良などが試みられている。
2) スキンリサーフェシング
 皮膚のアンチエイジングを目的とした治療にスキンリサーフェシングという概念がある。これは老化した皮膚の表面に機械的、化学的作用などにより障害を与え、その後の創傷治癒により機能不全の角質、萎縮した表皮や真皮が、新生されたものに置換されることにより機能的・美容的改善を目指すものである。深いリサーフェシングを行うと、皮膚がやや厚く硬くなり、表面積を減らして皮膚の張りが出るが、リスクも伴う。具体的には、機械的な作用によるmechanical peeling、酸などの薬剤を用いたケミカルピーリングchemical peeling、レーザーによるlaser peelingがある。機械的には電動グラインダー、細かい砂や粒子を吹き付けるmicordermabrasion、さらに海外で見られる“垢すり”もmechanical peelingの一種である。ケミカルピーリングはグリコール酸、サリチル酸やトリクロル酢酸などの酸を用いるもの、レーザーによるピーリングにはスキャナー付の炭酸ガスレーザーやEr:YAGレーザーなどが用いられる。白人では深いピーリングが可能であるため効果が高いが、有色人種では炎症後色素沈着、遷延する紅斑や創傷治癒の問題があり、ごく浅いピーリングが一般的となっている。
3) 注入剤filler
 皮膚内、組織内に注射して充填することを目的とした注入剤のことをフィラーfillerと呼び、90年代に入りコラーゲンを利用した注入剤が開発され、その簡便さからシワ治療を中心に急速に普及するに至った。現在一般的になっているものはすべて半年から1年程度で消失する吸収性の製剤である。わが国で承認されているのはウシ(米国産)由来コラーゲン製剤のみで、アレルギー(約3%に見られる)を検査するスキンテスト(1ヶ月の経過観察)が義務付けられている。しかし医師の個人輸入の形で、スキンテストが不要とされているヒトヒアルロン酸(リコンビナント)やヒト由来コラーゲンの製品が使用され広く普及している。ヒアルロン酸は粘度が高く細かいシワには不向きであるがvolumeが欲しい場合には逆に有利である。コラーゲンは粘度が低く、細かいシワにも使いやすい。ヒト由来コラーゲン注入剤は、新生児の割礼皮膚から採取された培養線維芽細胞が三次元シート上で産生したコラーゲン線維を抽出・利用した製品でFDAの承認を得ている。治療効果、持続期間はウシコラーゲン製品とほぼ同等である。スキンテストが不要といってもアレルギー反応を起こすことがある。
粉末状になっていて溶解して使用するタイプの製剤も見られるが、製品によっては溶解後の製剤が不均一で、塞栓などの合併症を誘発する場合があるので注意を要する。合成樹脂などの非吸収性人工物を配合した製品(永久的効果を謳っている)も存在するが、異物反応による後遺症例も多く見られ、長期的安全性に問題がある。
4) ボツリヌス菌毒素
 神経毒であるボツリヌス菌毒素の注射剤はわが国でも眼瞼痙攣や顔面痙攣などの不随意運動の保険治療に承認されているが、顔面の表情筋(眼輪筋、皺眉筋、鼻根筋など)を麻痺させることにより動きジワを目立たなくすることができるために美容目的に多用されている。また表情筋を麻痺させるため、同部位に処置を行ったfillerの吸収消失を遅らせることが可能となる。米国では近年FDAが美容目的についても承認した後、2004年には年間300万件(米国形成外科学会統計)と脅威的に普及した。
注射後1週間で完全に麻痺となり、その後時間とともに2〜6ヶ月で回復する。短期的に再注射する場合は抗体産生を誘発し、その後薬剤耐性が樹立される場合があるので注意を要する。上瞼の下垂があり眉毛を挙上している患者では、前頭筋への施術は避けることが望ましい。
5) 内科的治療
 皮膚のアンチエイジングを目的とした内科的治療は有効性についてはまだエビデンスは確立されていない。エストロゲンなどの女性ホルモン、抗酸化剤などが試行されるが、皮膚への臨床効果はまだ科学的な評価は十分になされていない。禿髪(男性型脱毛症)については、finasteride(プロペシア)などの抗アンドロゲン療法、ミノキシジルなどの血行改善薬が一定の有効性が確認されており、finasterideはわが国においても2005年末に生活改善薬の1つとして承認された(健康保険対象外)。4〜5ヶ月の内服治療により50数%の患者において有効性が認められた3)。

3.アンチエイジングを目的とした再生医療への取り組み
1)はじめに
皮膚のアンチエイジングを目的とした美容を目的とした再生医学的アプローチのターゲットは、大きく分けて、@皮膚、A脂肪(軟部組織)、B毛髪、である。再生医療の領域では、不死化リスクの少ない成人幹細胞を使うとは言え、培養に伴う諸問題を解決するために治療法の確立にはまだ一定の期間を必要とすると考えられており、とくに美容領域においては培養しない新鮮細胞や基質の利用から少しずつ普及していくと思われる。
2)シワ改善を目的とした再生医療
 1990年代に入り、シワの治療目的でfiller(注入剤)と呼ばれる充填剤が開発された。手術と異なり侵襲が小さいためダウンタイムが無く、非常に重宝されており、わが国でも牛コラーゲンの製品が承認されている。近年、他家新生児培養線維芽細胞から産生されたヒトコラーゲンを抽出して注射剤とした製品がFDAで承認され、ウシ製品に比べてアレルギーが少なく事前のアレルギーテストが不要とされている点が優れている。いずれも時間とともに半年から1年で吸収され消失する。
一方、同様の目的の治療法として、細胞外基質ではなく、細胞を使った製品の開発も進められている。耳の後ろなどから採取した皮膚サンプルから培養自己小片から線維芽細胞を採取し培養して充填した注射剤の臨床研究が米国、欧州、日本などで行われている。体積は小さいため反復注射が必要とされているが移植後の効果が持続することが期待されている4,5)。
2)軟部組織増大を目的とした再生医療
 先天奇形や後天性変形による陥凹変形を修正する目的で、また美容目的で組織増大を行う場合には、有茎皮弁移植、血管柄付き組織移植や自己脂肪注入、人工物注入などが行われる。美容的には傷を残さない注入治療が優れているが、人工物は異物反応、自己脂肪注入は組織壊死が起きやすいという問題点を抱えていた。一方、痩身目的で行われる脂肪吸引で採取される吸引脂肪には、血管や脂肪などへの分化が期待できる脂肪由来(前駆)細胞群(adipose-derived cells; ADC)が含まれていることがわかり、骨髄に変わる幹細胞源として注目されている6)。ADCは主にCD34陽性の間質細胞(adipose-derived stromal cells; ASC)で、血管内皮(前駆)細胞、血管周細胞なども含まれている。ADCは大量採取が可能であるため培養せずに新鮮な状態での臨床応用も可能である。ADCを別に採取し混合して移植することにより、自己脂肪注入の効果を高める治療法が試みられている(Cell-assisted lipotransfer; CAL)。移植される吸引脂肪はADCの含有数が正常脂肪に比べて少ないこと、またADCは低酸素条件下でVEGFをはじめとする血管新生促進物質を分泌することがわかっている7)。
3)毛髪再生を目的とした再生医療
 表皮幹細胞は表皮、毛包、脂腺など皮膚付属器などに分化することができ、毛包は表皮幹細胞が毛乳頭細胞からのシグナルを受けて形成されることがわかっている8)。男性型脱毛症(禿髪)の毛髪再生治療に向けて、動物実験においてはいくつかの実験モデルにおいて細胞移植により安定的な発毛がすでに見られている。しかし、侵襲性の小さい移植技術の開発、再生毛の太さや方向の制御、など、解決しなければならない課題もまだいくつか残されている。正常な機能を維持している自己培養毛乳頭細胞単独で、もしくは自己培養毛乳頭細胞と自己培養表皮幹細胞とを混合して、禿頭皮膚に移植する形での臨床研究も始まっている。現在臨床で行われている自家植毛と異なり、極少量の毛包から多数の毛髪を再生することを目的としている。
 
4.おわりに
 老化は結果であるが、老化は常に進行中である。治療により改善されてもやはり老化が進行する。アンチエイジング美容治療の中には、fillerやボトックスなど一時的な治療効果のものも多い。数年後に同じ老化程度の皮膚であれば(エイジングが進行していなければ)、その間の治療により大きな改善が得られていることを意味する。すなわち、アンチエイジング治療は、本来、継続的な治療であり、反復治療であって、治療の効能、効果が一時的なものであることはその治療価値をなくすものではない。しかし、治療効果を少しでも長く続くものにする努力はするべきであり、治療を行うのであれば明確な効果が高率に実現されなければならない。仮に治療メカニズムがはっきりしないのであれば、最低限、治療による臨床効果は科学的な評価を経て正当化されたのちに、普及されるべきである。今後アンチエイジング治療が患者からの信頼を伴ってさらに発展していくためにも、治療する医師サイドにおいて各治療法を厳しく評価をしていくことが必要であろう。

参考文献
1) Yoshimura K, Harii K, Aoyama T, et al.: Experience of a Strong Bleaching Treatment for Skin Hyperpigmentation in Orientals. Plastic and Reconstructive Surgery, 105: 1097-1110, 2000.
2) Yoshimura K, Sato K, Aiba E, et al.: Repeated treatment protocols for Melasma and Acquired Dermal Melanocytosis. Dermatol Surg, in press.
3) Kawashima M, Hayashi N, Igarashi A, et al.: Finasteride in the treatment of Japanese men with male pattern hair loss. Eur J Dermatol 14: 247-54, 2004.
4) Fagien S: Facial soft-tissue augmentation with injectable autologous and allogeneic human tissue collagen matrix (autologen and dermalogen). Plast. Reconstr. Surg 105: 362-373, 2000.
5) Homicz MR, Watson D.: Review of injectable materials for soft tissue augmentation. Facial Plast. Surg 20: 21-29, 2004.
6) Zuk PA, Zhu M, Mizuno H, et al.: Multilineage cells from human adipose tissue: implications for cell-based therapies. Tissue Eng 7: 211-228, 2001.
7) Rehman J, Traktuev D, Li J, et al.: Secretion of angiogenic and antiapoptotic factors by human adipose stromal cells. Circulation 109: 1292-1298, 2004.
8) Claudinot S, Nicolas M, Oshima H, et al.: Long-term renewal of hair follicles from clonogenic multipotent stem cells. Proc Natl Acad Sci USA 102: 14677-14682, 2005.



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