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乳房再建の最新情報(適宜更新します)

乳がん切除後の乳房再建は2013年から大きく変わろうとしています

 人工乳房ともいわれる乳房用シリコンインプラントが我が国においても初めての製品が承認される運びとなりました。そして健康保険で人工乳房を使った再建を受けることができるようになります。

 保険収載されることにより、これまで数十万円の患者自己負担で、各施行医師の責任のもとで行われていた人工乳房による乳房再建は、行政の管理のもとで、少ない自己負担で受けられることになります。すなわち、これまで世界的に非常に低いと言われていた日本の乳房再建率(3%程度)は、大きく増加することになると予想されています。2013年は、我が国における乳房再建元年となるわけです。

乳房再建にはどういう方法があるのでしょう?

 失われた乳房を再建する方法は、大きく分けて2つあります。1つは、人工物を皮膚の下に入れて、乳房の形と大きさを再現しようとする方法。もう1つは、自分の身体の一部を犠牲にして、移植する方法です。自分の身体を犠牲にする方法にも、おなかや背中からまとまった大きさの組織を移植する方法(皮弁移植)と、身体の余分な脂肪を掃除機のような陰圧を利用して吸引して取ってきて、注射針で注入していく脂肪注入という方法があります。

 このような手術方法は、それぞれに長所と短所があり、癌の病状、欠損の大きさ、皮膚や組織の状態、などによって、どのような方法が有利であるかが変わってきます。また、患者さん個人が優先したい条件によっても、選択肢が大きくかわることになります。本欄で、少しずつ説明していきたいと思います。疑問点のある方は質問も受け付けております。


乳房インプラント(人工乳房)とは?

 乳房インプラントは、人工乳房や乳房プロテーゼとも呼ばれたりする、要は、乳房の大きさや形を良くするために乳房の部分の中に挿入することを前提に作られた医療用の人工物の総称です。身体の外側につけるような装具(エピテーゼ)もあり、香港などでは保険適応になっています。中身は生理食塩水のものもありますが、シリコンゲルのものが中心で、最近は流れ出さないように粘稠度の高い(ソフト)コヒーシブというものが多くつかわれています。
 乳房インプラントを使う最大の利点は、身体の犠牲が最小限であることです。自分の身体のほかの部分を全く傷つけることはありませんので、身体の負担も小さく、回復も早いわけです。費用が高いものでしたが、2013年からは条件はあるものの保険収載が見込まれています。


脂肪移植、脂肪注入とは?

 脂肪注入とは、お腹や腰、太ももなどにある身体の余分な脂肪を脂肪吸引という手技で採取して、それを注射器で注入して移植するという、皮膚を切らない移植方法です。脂肪吸引とは、細い金属のカニューレ(3mm位の太さの棒状の器具)に陰圧をかけて皮下脂肪を吸引して回収する手術です。脂肪吸引は欧米では最も多く行われている美容手術で、全世界集計では年間300万件以上といわれています。カニューレを入れるために5mm程度の穴を皮膚にあけます。乳房への注入はシリンジに1mm程度の太さの針をつけて行います。
 この治療の最大の利点は、人工物がないこと、皮膚を切らないこと、自家組織移植の中では身体への負担が最小限であることなどです。欧州では非常に多くつかわれている手法で、人工物との併用も行われます。脂肪移植を加えることで、人工物特有の後遺症を軽減でき、こうした安全性の向上とともに、より自然に近い質感や形態が得られるというメリットがあります。


皮弁移植とは?

 皮弁移植法というのは、お腹や背中などからまとまった大きさの組織をその栄養する血管を軸に回転させたり、もしくは血管を一度切って胸部の血管と再縫合するなどして、バストに移植する方法です。大きな手術になり、一定の入院期間が必要ですが保険適応で行われます。
 この治療法の最大の利点はある程度大きな自分の組織を一度の手術で移植することができる点にあります。

温存療法と乳腺全摘療法

 
 乳がんが発見された場合に、その病状(大きさや進行度、がんの種類など)によって、進められる治療法が変わってきます。手術や放射線、化学療法など、さまざまですが、一般的には手術を行って、必要に応じて、ほかの治療法を併用します。長期にわたって、抗ホルモン剤などのお薬を飲んだり、再発などを観察していくことも求められます。
 乳がんの外科治療において、患者さんに選択の余地がある場合も多くあります。乳房の組織をできるだけ温存して放射線療法を併用する場合(温存療法)、乳腺を全部切除して放射線治療を免れる場合(乳腺全摘療法)、などの選択が良くある例です。

ティッシュエキスパンダーとは

 
乳腺全摘などの手術で、皮膚が一部切除されます。乳輪や乳頭も切除されることも多くあります。このような場合に不足した皮膚を補うために、ティッシュエキスパンダー(組織拡張器)という器具を中に入れて、膨らませることによって残っている皮膚を延ばすことが可能です。これはシリコンの薄い膜でできた丸いバッグで、少しずつ生理食塩水を入れて、3か月くらいかけて少しずつ膨らませていきます。乳腺全摘のときに同時に入れる場合もあります。表面がつるつるしたスムースタイプとざらざらしたテキスチャードタイプがあります。テキスチャードタイプの方が外側に異物反応でできるカプセルが薄く柔らかい利点があります。
 中に入れるのではなく、外に装具をつけて陰圧をかけて皮膚を膨らませようとするブラバという器具もあります。

再建手術法はどう選ぶ?

 
再建手術の方法には症状に応じて、いくつかの選択肢の組み合わせがあります。再建手術を行う時期は、乳がんの治療を担当する乳腺外科医や癌治療医の判断に基づきます。

 再建手術は患者が望む大きさ、形態、質感、色、の乳房を再現することを目指します。もちろん、自然な方がいいし、美しいほうがいいし、傷痕は無いほうがいいし、将来に向かって健康上安心できることが求められます。むろん、乳がんの再発は無いほうがいいし、再手術は無いほうがいいわけです。このような理想に近づくために行う乳房再建は通常複数回の治療になります。段階を踏んで、より理想に近づくことを、初めから想定して、治療計画を立てるわけです。ときには、対称性を得るために、もしくはより美しく見せるために、健常側に手を付けることもあります。

 乳腺全摘手術を受けたときの乳房再建には多くの選択肢があります。残った組織は量は少なめですが、正常の組織ですし、局所再発の可能性が小さく、ほとんどすべての術式が適応できます。皮膚が足りなければ、エキスパンダーで伸ばして、インプラントや脂肪注入(複数回、脂肪が多めの方)、もしくはインプラントと脂肪注入の併用で再建することができますし、皮弁移植を使って、組織と皮膚を同時に足すことも可能です。それぞれの治療法に良いところと悪いところがありますので、どの治療が自分の体型(身体が痩せているか、太っているか、健側のバストは小さいか、大きいか、垂れているのか)や好み(身体の犠牲や人工物の是非)にあっているのか、費用は?治療期間は?手術回数は?自然さは?などで、選択することになります。
 乳腺全摘のあとは、組織が少ないので脂肪注入だけで再建するには数回の手術が必要になります。インプラントと併用して再建することによって、大きさと自然さを兼ね備えた乳房を短期間に作ることができるようになりました。インプラントだけで再建した乳房に比べて、明らかに柔らかく、形がなだらかで、人工物特有の拘縮が抑えられるという利点を持ちます。すなわち、インプラントを使った乳房再建も進化して、新時代を迎えようとしているわけです。

 乳腺を部分的に切除して放射線治療を併用する温存療法を受けた場合は、乳腺全摘手術を受けた場合とは大きく異なります。残った組織の体積は大きいわけですが、放射線治療の影響で組織のダメージがあり、時間の経過とともに、硬くなり(線維化)、冷たく(阻血)なります。血流が悪く、組織の質が落ちていて、手術をするとその傷の治り方が悪いわけです。組織の持つ予備能力が落ちていますので、エキスパンダーを使って皮膚を伸ばそうとしてもうまくいきません。すなわrち、再建手術には向いていないわけです。ですから、乳房再建という観点からいえば、乳房再建をしないことを前提に、乳房の組織をできるだけ残そうとする癌切除手術を受けたい方に向いていると言えます。変形はありますが、乳房の一部が残っていることで良しとしようというわけです。
 しかし、最近ではこの放射線治療を受けて硬くなった組織を、 もとのように賦活化する治療ができるようになりました。放射線治療を受けて幹細胞が少なくなった硬い組織に、脂肪注入を行うと組織に血流が行くようになり、柔らかくなり、治癒能力が高くなることがわかってきました。すなわち、健康な組織に近づくわけです。こうして1-2回の脂肪注入をすると、そこにインプラントですら安全に入れることができるようになることもわかってきました。脂肪注入は組織に幹細胞を与え、賦活化することがわかってきたのです。

温存療法につきものの放射線療法とは?

 温存療法ではできるだけバストの組織を温存して、切除する組織は最小限となります。これは乳房を失う患者さんにとってはとても有難いことですが、良いことばかりではありません。 なぜなら、温存した組織に残っているかもしれない癌細胞を殺してしまうために、手術の後に放射線療法を受けなければいけないからです。福島の事故で身近の話題になった放射線ですが、分裂する細胞をより選択的に殺す力があります。ですから、分裂細胞の多い成長期の子供たちには非常に良くないわけです。癌細胞というのは不死の力を得て、分裂増殖し続ける細胞です。すなわち、放射線を照射すると、正常な細胞(分裂していない)よりも殺されやすいわけです。これだけならいいのですが、放射線照射で受けた軽いやけどを治そうと組織にいる眠っていた幹細胞が分裂を始めてしまうために、この大事な幹細胞までもが殺されてしまうわけです。

 幹細胞がなくなるとどうなるのでしょうか?その組織は明日を担う子供たちがいない、まるで少子化の社会のようです。すなわち、今は一見問題がわかりにくいけど、将来的に寿命を迎えた細胞の跡継ぎがいません。その組織は長い時間の経過の中で、少しずつ硬くなり、血行が悪くなり、冷たくなって、萎縮していきます。皮膚の色もくすんできて、乾燥してきます。毛がなくなったり、つるつるになったり、赤い毛細血管が浮き出てきたり、皮膚がはがれて潰瘍ができることもあります。何か手術をしてもなかなかうまく傷が治りません。肥えた土地がやせた土地になってしまったのです。

乳房再建は保険適応になるの?

 乳房再建に保険がきくかどうかは治療法によります。適応範囲内のエキスパンダーを使ったり、自分の組織で再建をする場合などは保険適応になります。人工乳房を使う場合は保険適応外となり、数十万円の費用がかかります。しかし、2013年度に一部の人工乳房が保険適応になる見通しです。一部の特殊な術式や、承認されていないごく一部のエキスパンダー(テキスチャードタイプなど)、承認されていない人工乳房(テキスチャードタイプなど)などは、保険適応外のままですが、保険診療の範囲内でかなりの乳房再建ができるようになります。
 乳頭、乳輪の再建は保険診療で可能ですが、乳頭や乳輪に刺青で色をつけることは保険適応外になります。


 

 

乳房再建に関する和文の文献

1) 乳房の美容医療(2011/05)

2) 乳房再建(2011/03)

3) 脂肪注入による乳房増大術 (2009/02) [PDF]

 

 

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