Cosmetic Medicine in Japan -東京大学美容外科- トレチノイン(レチノイン酸)療法、アンチエイジング(若返り)
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アンチエイジング---美容形成学の現状と将来

吉村浩太郎 (2003年1月)

 

はじめに
90年代に入り、わが国でも美容医療全体に対するニーズの高まりが見られるが、社会の高齢化が進んでおり、なかでもアンチエイジング治療の意義はますます大きくなってきた。40−60歳代の人々の美容医療に対する抵抗感も昨今急速に薄れてきたようにも思える。戦後生まれの、老後のための貯蓄を持つ人々が、子供が成人して手を離れ、これからはもっと自分自身のために過ごそうと余生を見つめなおす動きが感じられる。一方では、従来の外科手術による治療だけでなく、生活上の負担の少ない皮膚科的治療や内科的治療が近年発達し、アンチエイジング目的の美容医療自体も大きく変わってきた。本稿ではアンチエイジング美容医療を、@美容外科的治療、A美容皮膚科的治療、B再生医療の3つに大きく分けて、その現況と今後の展望について述べる。

1. 美容外科的治療
美容外科的なアンチエイジング治療といえば、中心はfaceliftである。治療効果だけを考えた場合、重力による軟部組織の下垂や余分な皮膚を切除することが一番効果がある。頬部、頚部のlifting、中顔面、前額のliftingに加え、上下眼瞼の皺取り術もその若返り効果は非常に大きい。Facelift全般にいえるが、皮膚を切除して強く吊り上げるのではなく、皮下の筋膜(腱膜)、筋肉、脂肪塊などを強く引き上げ、皮膚は必要最小限のみを切除することにより、大きな効果が得ながら傷跡を最小限とすることができる。姑息的ではあるが、腹部からの脂肪を注入することによって、老化して現れる軟部組織の萎縮を是正し、皮膚のタルミをとる手術も、眼瞼、頬部、側頭部などにしばしば行われる。内視鏡を用いた手術も前額や中顔面の吊り上げに用いられるし、上下眼瞼の手術では経結膜アプローチによる手術も行われる。これら術後瘢痕が目立たない術式は美容手術の場合は特に重要である。
外科的治療は治療効果は大きいが、一定の回復期間を余儀なくされる。一定の効果が得られるのであれば、腫れが少ない、回復が早いという観点から、より侵襲の少ない手術術式についての今後の改良も期待されるところである。近年は皮膚を切開せず、糸で吊り上げようとする術式をはじめ、いくつかの新しい試みが行われているが、まだ改良すべき問題点も多い。

2.美容皮膚科的治療
 アンエイジング目的の美容医療といえば以前はfaceliftをはじめとする手術治療が中心で、美容目的の医療材料、医薬品、医療機器などの開発はまだそれほどさかんではなかった。90年代に入り、いくつかの大きな変化が見られる。シワ治療目的の牛コラーゲンの注入剤が登場し、皮膚の美容治療を目的としたいくつかのレーザー機器が開発され市場に出るようになった。レチノイドの外用剤が皮膚の若返り目的で米国FDAに認可されたのも90年代半ばである。その後、注入剤にはヒアルロン酸をはじめとして新しい素材が登場し、レーザー市場は巨大化して、あざ、しみ、ほくろだけでなく、脱毛、若返り、血管拡張、ニキビなどをも対象とし、次々に新機種が開発されるようになった。特に、脱毛レーザーはそれまでの針脱毛を覆す好成績をあげて、一気に主役となった。一方では、古くからあったケミカルピーリングの技術が洗練され、新しいピーリング剤も登場して改めて脚光を浴びるようになった。特に、若返りやニキビの治療において注目され、特別な投資を必要としない手軽さもその普及に拍車をかけてきた。われわれはレチノイドを表皮メラニンのdischargerとして利用するシミの治療を開発し、その機序を明らかにしてきた1-3)。さらに、従来、眼瞼けいれんなどの治療に使われていた神経毒であるボツリヌス毒素が表情ジワ治療の目的に使われるようになり、その高い効果から急速に普及した。このように、90年代はこれまであった薬品や治療法が美容治療という新しい市場を見つけて急速に普及するとともに、今度ははじめから美容医療を第一の目的とした薬品、材料、機器の開発が始まった時代といえるであろう。
 このような回復期間の短い美容皮膚科的治療の発達によりアンチエイジング美容治療も様変わりし、患者数も数倍に増えた。当施設での美容初診患者は年間約2,000名に及ぶが、その大半はこの美容皮膚科的治療を希望している。

3.再生医療
 美容目的の再生医療についても、まだ研究段階ではあるが進展が見られる。多くは本人の細胞を利用するもので、皮膚や脂肪から採取した幹細胞を利用するもの(基本的にautograftとなる)と、細胞間基質を利用するものがある。
 皮膚の幹細胞の利用では、真皮内の線維芽細胞をシワの治療に利用するもの、線維芽細胞と表皮角化細胞で人工皮膚を作成して利用するもの、毛根の細胞を利用して禿髪(薄毛)の治療に利用する研究などが行われている。自己の細胞を利用することにより、それ自身の移植による組織の補充、さらに移植した細胞自身から分泌されるサイトカインなどの増殖因子による効果を期待する。毛髪では自家植毛が行われているが、培養することによりわずかな犠牲で豊富な毛髪再生を実現しようとする試みである。
 さらに近年、脂肪組織から間葉系幹細胞が豊富に採取できることが明らかになり注目を集めている。これまでは骨髄や臍帯血がこうした幹細胞の供給源と考えられていたが、脂肪吸引術で採取した、本来なら廃棄される吸引脂肪から、骨、軟骨、筋肉、脂肪などに分化させうる間葉系幹細胞が大量に抽出できることが明らかになった4)。こうした幹細胞は、注入組織として、また細胞工学的技術により移植軟骨などの材料として利用できる可能性がある。当施設においても豊胸術などに臨床応用を始めている。さらに、美容目的のみならず、心疾患(心筋細胞に分化)、骨疾患(骨芽細胞に分化)、筋疾患(筋芽細胞に分化)などの治療にも臨床応用することも期待されている。また、幹細胞は老化とともに減少し、このことが加齢とともに組織の修復が悪くなりやがて死に至ることにつながると考えられるため、若年時に幹細胞をバンクしておけば、後に本人の抗老化治療として利用できる日が来るかもしれない。
 細胞間基質を利用する方法としては脂肪や皮膚から採取したコラーゲンなどの細胞間基質をやはりシワやタルミなどの治療に利用できることが期待されており、一部ではすでに実用化されている。自分の組織を利用することによる高い安全性や生着性が期待されている。
 
おわりに
生命の維持に関わらない美容治療はこれまではあらゆる意味でないがしろにされてきたが、近年、患者ニーズが高まり、美容医学の必要性が徐々に認知されるようになってきており、関連学会、関連業界においても真剣に取り組まれるように変わってきた。研究分野としてもまだ未熟であるため、今後多くの医師、研究者による治療の発展が予想される。一方では、美容治療はビジネスとして捉えられやすい側面もあるため、関係業界全体による医療の質、医師のモラルの低下を防ぐための取り組みも不可欠であると思われる。

参考文献
1) Yoshimura K, Harii K, Aoyama T, Iga T: Experience with a strong bleaching treatment for skin hyperpigmentation in Orientals. Plast Reconstr Surg 105: 1097-1108, 2000.
2) Yoshimura K, Uchida G, Okazaki M, et al. Differential expression of heparin-binding EGF-like growth factor (HB-EGF) mRNA in normal human keratinocytes induced by a variety of natural and synthetic retinoids. Exp. Dermatol., in press.
3) Yoshimura K, Momosawa A, Aiba E, et al. Clinical trial of bleaching treatment with 10 % all-trans retinol gel. Dermatol. Surg., in press.
4) Zuk PA, Zhu M, Mizuno H, et al. Multilineage cells from human adipose tissue: implications for cell-based therapies. Tissue Eng. 7: 211-28, 2001.

 


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