1 シミ治療
A トレチノイン療法
1薬剤
aトレチノイン
レチノイン酸はビタミンAのカルボン酸誘導体でいくつかの立体異性体が存在する。なかでもトレチノイン(all-transレチノイン酸)は核内のレチノイン酸受容体(retinoic
acid receptor; RAR)の天然リガンドとして、生体内におけるレチノイド、カロテノイドの生理活性の主役を担っている。レチノイドシグナルの伝達経路の模式図を図1に示す。トレチノインは表皮内メラニンの排出を促進することによりシミ治療においてその特異的効果を発揮する[1]。トレチノインは表皮角化細胞増殖促進作用、ならびに表皮ターンオーバー促進作用を示し、その結果落屑とともに表皮メラニンが排泄されるが、トレチノインにはメラニン産生を抑制する効果はなく、通常は新たにメラニンが産生されてしまう[2]。そこで、トレチノインの外用と同時に、ハイドロキノンなどの漂白剤で新たなメラニンの産生を持続的に抑制することでメラニンの少ない新生表皮に置き換え、色素沈着が改善される。レーザー療法が使えない肝斑や炎症後色素沈着の治療において特に有用性が高い。
トレチノインの外用初期は、紅斑・落屑・刺激感等の皮膚炎症状がほとんどの場合みられるが、これは外用中止とともに速やかに軽快する。また、レチノイドの副作用としては催奇形性が知られているが、外用における経皮吸収は微量であり、妊婦への投与は避け、治療中は避妊を励行させれば十分である。
b ハイドロキノン
ハイドロキノンは代表的な漂白剤(bleacher)のひとつで、強いチロジナーゼ活性阻害作用を示し、高濃度ではメラノサイトに対して細胞毒性があり、メラニン産生を抑制する作用をもつ。その漂白効果は可逆性で安全性が高いが、ときに刺激性皮膚炎を誘発することがあり事前にパッチテストを行うことが望ましい。ハイドロキノンはメラニンの排出促進効果がないため単独使用してもシミ治療では改善効果がほとんどみられないが、トレチノインとの併用で大きな効果をあげることが可能である。表皮メラニンの産生と排出に影響する因子の概略を図2に示す。
2外用方法
トレチノイン療法はbleaching step (積極的に漂白を行う期間)とhealing step(漂白後に残る皮膚炎を大事に冷ましていく期間)に分けて行う。Bleaching
stepでは患者自身にトレチノインゲルおよび5%ハイドロキノン軟膏を毎日2回患部に外用させる。昼間はこの上に日焼け止めクリームを必ず使用させる。原則として治療開始時は顔面には0.1%、上肢および体幹には0.2%、下肢には0.4%のトレチノインゲルを使用し、必要に応じて濃度を適宜変更する。トレチノインゲルは色素沈着からはみ出さないようベビー綿棒を用いて外用し、よく乾かした後、ハイドロキノン軟膏をその上に広く外用する。ハイドロキノンの外用はできるだけ広範囲に行うことが炎症後色素沈着の予防に望ましい。通常、外用開始数日で紅斑や鱗屑や刺激感などの反応性の皮膚炎症状が現れる。一週間経ってもこの反応がみられない場合はトレチノインの使用回数を増やすか、もしくは強い濃度に変更する。症状が強すぎる場合はトレチノインの回数を減らし対応する。2〜6週間経過し色素沈着が十分に消失したらトレチノインゲルを中止し、ハイドロキノン軟膏のみを継続しながら炎症をさましてゆく(healing
step)。Healing stepにおいてハイドロキノン軟膏は紅斑が消失するまで(4週間以上)継続する。こうして1クールの治療(6〜12週間)が終了する[3,4]。
トレチノインは耐性を生じやすく8週間以上連続使用しても効果が上がりにくいため、1クールの治療にて十分な効果がえられなくても、トレチノイン使用期間は8週間を限度とする。その耐性は休薬期間が長いとその一部が失われるため、複数回治療を繰り返す場合、1ヶ月以上できれば2〜3ヶ月の間隔をおいて次クールを行うのが望ましい。
B レーザー療法
メラニン性皮膚色素疾患に使用されるレーザーには、Qスイッチルビーレザー・Qスイッチアレキサンドライトレーザー・ノーマルルビーレーザーやQスイッチNd(ネオジウム):YAGレーザー、炭酸ガスレーザー等がある。Qスイッチレザーは、パルス幅が短く真皮内色素を治療する場合に表皮に与えるダメージを少なくする。ルビー、アレキサンドライト、Nd(ネオジウム):YAGレーザーの順に波長が長くなりメラニンの吸収率が落ちていく。一方、レーザーの到達深度は、波長が長くなるに従い、また照射エネルギーが大きくなるほど深くなる。一般的にはルビーレーザーの方がメラニンの破壊効率が高く、一方照射に伴う炎症が強くなるため副作用としての炎症後色素沈着も起こりやすくなる。炭酸ガスレーザーは水をターゲットとした高波長のレーザーで、スキャナー付きの炭酸ガスレーザーが脂漏性角化症や黒子の治療、しわを目的としたレーザーリサーフェシングなどに用いられる。
いずれのレーザーにおいても照射後は炎症後色素沈着を伴うことがあり、照射後2週ころよりハイドロキノンによる後療法を行い、炎症後色素沈着が生じた場合にはトレチノイン療法で治療することも可能である。
Cシミの種類とその治療法
いわゆる?シミ″と患者がよぶものには様々あるが、トレチノイン及びQスイッチルビーレーザーを組み合わせることで、ほとんどのシミを効率よく治療することが可能となった。治療あたっては、まず的確な臨床診断が鍵となる。トレチノインのシミ治療における役割は表皮内メラニンの排出であり、メラニンが表皮内のみに存在するのか、あるいは表皮および真皮ともに存在するかでそれぞれの治療プロトコールが変わってくる。(図3)
肝斑や炎症後色素沈着にはレーザーの適応はないが、表皮内メラニンがほとんどであるため、通常はトレチノイン療法のみで治療が可能である。炎症後色素沈着は比較的短期間で改善するが、肝斑はトレチノイン療法を2クール以上行うことも多い。(図4)
雀卵斑も表皮基底層にメラニンが存在するため、トレチノイン療法による治療が可能である。しかし、先天的にメラノサイトのメラニン生成能が亢進しているため、再発傾向が強い。扁平母斑はトレチノイン療法で効果のある場合もあるが、レーザー療法同様、再発も多く難治性で治療に苦渋することが多い。
日光性色素斑はトレチノイン療法のみで治療可能なものもあるが、過角化がある場合が多く、レーザーで治療を行い、後に起こる炎症性色素沈着に対しトレチノイン療法をおこなうとより確実である。
後天性真皮メラノサイトーシスのように表皮および真皮内ともにメラニンがある場合、まずトレチノイン療法で表皮内メラニンを排出させたのち、真皮メラニンに対しQスイッチレーザー照射を行う。そして、照射4週間後からレーザー照射で生じた炎症後色素沈着に対し再度トレチノイン療法を2〜4週間行う。このレーザー→トレチノイン療法を繰り返し2〜3回行う。レーザー照射前に予め表皮内メラニンを取り除くことにより、レーザー照射により効率よく真皮内メラニンを破壊することができるとともに炎症後色素沈着を少なくする効果が期待できる(図5)[1]。真皮内がメラノファージである場合は、トレチノイン療法後の1回のレーザー照射で十分な効果が得られることも多い。(図6)
太田母斑、伊藤母斑や蒙古斑のような真皮性の色素異常には複数回のレーザー療法で効果的に治療が可能である。
一般的に、部位別では顔が一番効果が高く、上肢や体幹ではやや治療効果が落ちる。下肢は最も治療しにくい。
C 治療後の経過とケア
老人性色素斑や肝斑は治療後数ヶ月経って再発してくることもあるが、治療後もハイドロキノン等の漂白剤を継続使用することで再発を予防することができる。通常、炎症性色素沈着に関しては治療後のメンテナンスを行わずとも結果を維持することができる。しかし、扁平母斑や雀卵斑などは、より再発する可能性が高い傾向にある。
2 しわ
顔のしわはその発生原因が様々である。いわゆる小じわ、?ちりめんジワ″とよばれる状態は組織学的には表皮から真皮乳頭層までの変化であり、大ジワになるにつれて真皮結合織の関与が大きくなる。眼瞼周囲のいわゆる?カラスの足跡″や眉間の縦ジワ、前額の横ジワには表情筋が関与している。
しわはその性質、場所や深さによってその治療方法が異なる。
A ちりめんジワ・小ジワ
1 レーザー
レーザーリサーフェシングはレーザーを利用して皮膚を薄く広範囲に蒸散させ、真皮に熱変性をおこし、その創傷治癒過程でコラーゲンの再編成をはかる治療である。代表的なものとして炭酸ガスレーザーがあるがダウンタイムも長く、とくに東洋人においては、色素沈着を生じ、また紅斑が遷延しやすく、ときに瘢痕形成を生じるなどの理由からあまり普及していない。
ダウンタイムのないnon-ablativeなレーザーが広く試みられており、IPL(Intense Pulsed
Light)、高周波治療器Radiofrequency(ThermaCoolRほか)、や併用器(AuroraR)、短パルスルビーレーザー(N-liteR、V-beamRなど),ロングパルスEr:YAGレーザー(CooltouchRなど)などがある。IPLはレーザーとは異なり、フラッシュランプより発する560〜1200nmの広域波長の拡散光をフィルターを通して照射する。この光による微細な熱損傷を通してコラーゲンが増生されることを期待する。RF(Radiofrequency)は皮膚深部に電気的な熱を与え真皮に熱損傷を起こし、その創傷治癒過程で組織の再構築を期待する。AuroraRは580〜1200nmの広帯域波長のフラッシュランプに合わせてRFが発振され、照射時に冷却も同時に行う。CooltouchRは水を標的とした波長1320nmのEr:YAGレーザーで、冷却ガスにより照射時に表皮に損傷を与えずに真皮のコラーゲンの産生を図る。N-liteRは波長585nm、V-beamRは波長は595nmのダイレーザーで酸化ヘモグロビンをターゲットとし、血管周囲炎症からのコラーゲン産生を期待する。
いずれも真皮内に微細な炎症を起こし、一時的な皮膚の腫脹が見られ皮膚の張りが出たような状態を経過する。複数回の照射を行うことにより真皮内への蓄積的・不可逆的効果を期待する。これらのレーザーは臨床効果は非常に小さいが、副作用が少なくダウンタイムがないという利点がある。
2 ケミカルピーリング
ケミカルピーリングはリサーフェシングを薬剤の化学的作用を利用して行うもので、表皮・真皮に化学的に変性をおこし、コラーゲンの再編成をはかる。AHAやサリチル酸などによるvery
superficial peelingもしくはsuperficial peelingの反復治療が行われる。TCAやフェノールを用いたmedium〜deepのケミカルピーリングは真皮組織の再構築効果は高いが、東洋人では色素沈着や紅斑、瘢痕等の問題がある。日本では浅いピーリングが一般的で、くすみやシミに効果はあっても本格的にシワを改善させるのは困難である。
3 レチノイド
レチノイン酸は使用初期の段階においては表皮のresurfacing効果があり、継続的に使用することにより、真皮において薬剤の線維芽細胞のコラーゲン産生が促進作用を期待する。紫外線による光老化の諸症状への有効性、また表皮レベルでは表皮角化細胞からのヒアルロン酸の産生が促進されることが報告されている。[5-7]
4 ビタミンC
ビタミンC は活性酸素(フリーラジカル)を消去する抗酸化作用をもち、線維芽細胞によるコラーゲン産生への有効性が報告されているが[8]、実際のシワへの臨床効果は弱い。ビタミンCの前駆体(リン酸エステル型アスコルビン酸など)の外用で、もしくはイオン導入により治療が行われている。また、脂溶性のビタミンCテトラヘキシシルデカノエート(VC-IP)もよく使用されている。
B 大ジワ
1 美容手術
口や眼瞼周囲の大きなしわやたるみには、効果の面からいえば美容手術が最も有効である。2〜4週間のダウンタイムを許容できれば、フェイスリフト手術や眼瞼の除皺術などで明確な改善効果を得ることができる。たるみは、加齢とともに骨から、骨膜、筋肉、筋膜、脂肪、皮膚までのつながりが弱くなり、重力による軟部組織の下垂がおこることが原因である。これを下垂した組織を従来の位置に戻すには、外科的に吊り上げて固定することになる。また、その際に生じる余剰皮膚を切除することで皮膚自体の張りが出て、しわも同時に改善される。フェイスリフト手術には、頚部、頬部、側頭部、前額部と、手術部位により大きく分けて4種類ある。頚部リフトでは主に頚の縦ジワが、頬部リフトではあごのラインやマリオネットライン(口角から下方に走行するしわ)の改善が得られ、側頭部リフト(ミッドフェイスリフト)では主に鼻唇溝、nasojugal
groove、malar crescent、外眼角下垂の改善が、前額リフトでは上眼瞼や眉毛の下垂、前額のしわなどが改善される。一方、上・下眼瞼のシワ取り術も効果は非常に大きい。
高齢者では頬部、上・下眼瞼の窪みやコメカミ部への脂肪注入によって、老化とともに現れる軟部組織の萎縮を是正し、皮膚のタルミを改善する手術も行うことがある。
2 Filler
Filler注入は、外科的な除皺術やケミカルピーリングで治療困難な鼻唇溝、額、眉間、口唇周囲の線状皺に有効な治療法で、ダウンタイムがほとんどないため、わが国においても広く普及している。治療する部位の状態によるが、通常は1回の治療でかなりの改善がみられる。現在使用されているfillerは多数あるが、わが国でよく使用されているものとして、コラーゲン製剤・ヒアルロン酸製剤があげられる。治療後は注入部位に発赤・腫脹・圧痛が生じることがあるが数日以内で消失し、その後徐々にfillerは吸収され、通常3ヶ月から12ヶ月程で治療前の状態に戻る。
他には、吸収性のポリ乳酸製剤(New FillTM)や、非吸収性のPMMA(ポリメタクリレート)やポリアクリルアミドを配合した製剤などもあるが、非吸収性製剤に関する安全性はまだ確立されていない。
患者自身の組織を利用した製剤も存在する。患者自身から採取した線維芽細胞を培養増殖させた注入製剤(IsolagenTM)や患者自身の組織からコラーゲンを抽出した製品(AutologenTM)なども海外では試みが始まっている。
a コラーゲン製剤
わが国で承認済みの製品はウシコラーゲン製剤のみで、ZydermTR, Zyderm UR、ZyplastR(米国、Collagen社)とアテロコラーゲン1%R・アテロコラーゲン2%R・アテロコラーゲン3%R(日本、轄l、)がある。ウシコラーゲン製剤は3〜6%の患者にアレルギーが見られると報告されており、患者の前腕部にテスト用コラーゲンを皮内注入し、テスト部位に発赤や腫脹や痒み等の過敏症の症状が現れないか4週間の観察期間をおく。テスト陰性患者においてもごく稀に遅延反応が出ることがある[9]。また、コラーゲン製剤は局所麻酔剤として少量のリドカインを含有するため、リドカインによるアレルギーの既往がある者への使用も避ける。コラーゲン製品はヒアルロン酸製品に比べて粘脹度が低く、注入がしやすい利点を持つ。適応は前額部、眉間、眼瞼周囲、鼻唇溝で場所やシワの深さにもよるが、3〜6ヶ月効果が持続する。(図7)
昨年3月に米国FDAが、ヒト培養線維芽細胞から得たコラーゲンを精製して製造されたヒトコラーゲン製剤(CosmodermTR、CosmoplastR)が承認され、その後わが国においても個人輸入を通して使用されている。ヒトコラーゲンは、アレルギー発生率がウシ製品よりも低いため、事前の皮内テストが省略できるとされている。治療効果、効果持続期間はウシ製品とほぼ同等である。
スキンバンク皮膚を利用したコラーゲン製品(CymetraTM)もある、粉末状であるため、溶解して使用する必要がある。皮内テストは不要とされているが、内容が不均一で、細い注射針が使えないため使用しにくい。
b ヒアルロン酸製剤
ヒアルロン酸は生体の皮膚や関節液に存在する物質で、鶏冠より抽出されていたが、現在は細菌を使ってヒトリコンビナント(遺伝子組み換え)ヒアルロン酸が製造されており大量供給が可能となっている。ヒアルロン酸の場合、事前の皮内反応が必要とないとされているが、ごくまれに腫脹や発赤の症状がみられることがある。ヒアルロン酸は注入後、組織内で分子間に水を取り込むため体積の減少が少なく、コラーゲン製剤に比べ効果の持続時間が長い傾向にある(6〜12ヶ月)。しかし、コラーゲン製剤に比して粘張度が高く治療後患部に凹凸が生じやすいため、皮膚の薄い眼瞼や前額への注入は避けることが望ましい。組織増大効果がヒアルロン酸に比べて優れているため、眉間や鼻唇溝などの深いしわの治療や、鼻やオトガイの増大術などの目的に適している。
3 埋入剤
わが国ではあまり使われていないが、海外ではいくつかの埋入物も使われており、テフロン(expanded
polytetrafluoroethlene= ePTFE; GoretexR)で作られたチューブ(SoftformR)などがある。テフロンは人工血管や鼠径ヘルニアなどの手術で人工材料として長く使用され、すでに安全性が確認されている。内腔構造により皮膚上から触れても適度の柔らかさを持ち続ける特徴があり、鼻唇溝、マリオネットライン、赤唇などに使用されている[10]。体内で吸収されず、永久的な効果が期待され、また不要になった場合は抜去が可能であるが、人工物であるため露出や感染などのリスクがある。他にはスキンバンク皮膚から作製される細胞外基質シートADM
(acellular dermal matrix: 無細胞真皮)であるAllodermRも同様の目的に使われている。
C 表情ジワ(動きジワ)
ボツリヌス菌製剤
A型ボツリヌス菌毒素製剤(BOTOXR, Allergan社)は、嫌気性菌Clostridium boutlinumによって生産される8種類(A,B,C1,C2,D,E,F,G)の神経毒素血清型のうち、A型を単離精製したものである。A型ボツリヌス菌毒素(BTX-A)は神経筋接合部に作用し神経終末からのアセチルコリン(Ach)放出を阻害することにより筋力低下作用や筋弛緩作用を示す[11]。
顔面の表情ジワはその下にある表情筋の収縮によって生じるが、BTXを注入することで注入部の表情筋のみ選択的に弛緩性麻痺がおこり、皺が改善される。したがって、BTXは前額部の横皺や眉間の縦皺、眼瞼周囲の笑い皺などに効果が高い(図8)。また、filler注入をしてもその後の繰り返す筋収縮により吸収が早くなる傾向があるが、BTXを併用することでfillerの治療効果をより長くもたせることができる。
BTXの効果は注入24〜48時間後よりみられるが、その効果は可逆的で注入2〜11ヶ月後には消失する。近年、指摘されている問題点は、周囲に拡散することによる目的外の麻痺誘発の他、何回か使用した後に抗体ができることによる耐性の問題、薬剤の安定性の問題などがある[12]。BTX製品は粉末入りバイアルとなっており、溶解液で溶解する際に、濃度を薄くすれば投与する場合に容量が多くなるため目的の筋肉の麻痺は起こりやすいが拡散により周囲の目的外筋肉への影響が出やすい。一方、濃度を高くすれば拡散が起こりにくいので、熟練したらできるだけ高濃度に溶解することが望ましい(例:BotoxR100単位の場合は1〜2mlで溶解する)。
製品としてはボツリヌス毒素Aの2製品BotoxR (Allergan, Inc., Irvine,
CA), DysportR(Ipsen Ltd., Maidenhead, Berkshire, UK)、およびボツリヌス毒素Bの製品MyoblocR(治験中:Elan
Pharmaceuticals, South San Francisco, CA)があるが、すべてわが国では未承認であるので医師の個人輸入を通して使用されている(BotoxRは国内で眼瞼痙攣、顔面痙攣に対して承認されているが、美容目的では未承認)。
図1.レチノイドの細胞外・細胞内シグナル伝達経路の模式図。
図2.表皮内メラニンの産生と排出に影響する因子。トレチノイン療法では排出を促し、産生を抑制しようと試みる。
図3.我々が行っているシミ治療のアルゴリズム。
図4.肝斑の治療前(上)と治療後(下)。トレチノイン療法(2ヶ月)を2回行っている。
図5.ADMの治療前(左)と治療後(右)。トレチノイン療法を4回、その間にQスイッチルビーレーザー照射を3回行っている。
図6.真皮内メラノファージを伴う色素沈着の治療前(左)と治療後(右)。トレチノイン療法を2回、その間にQスイッチルビーレーザー照射を1回行っている。
図7.コラーゲン注入による鼻唇溝の治療前(左)と治療後(右)。
図8.前額部シワのボツリヌス毒素による治療の治療前(上)と治療後(下)。
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