幹細胞というのは、再生医療においてはその治療のもとになる重要な細胞です。役割がすでに決まっている体細胞とは異なり、まだこれからいろいろな細胞に分化する能力や、まだ何度も分裂を繰り返して増殖する能力を維持している特殊な細胞です。幹細胞には大きく分けて、身体のあらゆる細胞になる能力を持っている胚性幹細胞(ES細胞という呼称で知られています)と、ある一定の領域の細胞になりうる体性幹細胞(組織幹細胞、成人幹細胞)とがあります。
ES細胞の研究も非常に盛んに行われています。再生医療を目的とした、核移植や細胞核の初期化の研究もあります。しかし、現時点ではまだES細胞の臨床応用には安全面で多くの問題点を残しています。一方、体性幹細胞は、あらゆる細胞に分化できるわけではありませんが、癌化などの心配が少なく、目的を絞れば非常に使いやすい細胞であるため、臨床応用が近いと考えられています。体性幹細胞には、造血幹細胞、神経幹細胞や間葉系幹細胞などがあり、主に骨髄や臍帯血などから採取されますが、実は身体中の多くの組織に存在しています。脂肪や皮膚などから採取することも可能です。
間葉系幹細胞は、骨、軟骨、脂肪、骨格筋、心筋、真皮、靭帯、腱などに分化することができます。こうした組織、器官は美容医療においても重要なものです。自分の細胞を使って、これまで不可能であった美容治療が可能になるかもしれません。身体に対してはより少ない犠牲で、より安全な治療が実現するかもしれません。今後の研究の進展に期待しましょう。
脂肪由来幹細胞(ASC)は脂肪吸引術によって採られる吸引脂肪からも採ることができます。この細胞は間葉系の多能性を有するだけでなく、CD34陽性で血管新生などの治療にも有効性が示唆されており、採取も簡単で細胞培養による増殖能も高いことから最近注目されています。
ASC の特徴は、間質細胞でありながらCD34陽性細胞が非常に多いこと、培養すればCD105(間葉系の多分化能に関連)陽性であること、さらに特殊培養技術によって血管前駆細胞に特徴であるFlk-1陽性細胞、CD117(c-kit)陽性細胞を大量に得ることができることなど、他の組織幹細胞にはないユニークな面を持っています。
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